こうしたなか、EUの主要メンバーであるドイツとフランスもやはり、ウクライナに直接軍事支援を行うことには慎重な姿勢を示している。ドイツは外交的による解決を訴え、旧東ドイツの野砲が他国経由でウクライナに流れることを拒んでいる。1月末には代わりに軍用ヘルメット5千個を提供すると発表し、ウクライナ側から失望の声が上がったほどだった。本年前半のEU議長国フランスも軍事的な圧力に訴えるよりも、外交交渉を重視し、ばらばらになりがちな欧州各国をまとめ上げつつ、能力と意志を持つ有志国が中心となって地政学的問題に取り組む欧州独自の戦略「戦略的コンパス」をつくることに腐心している。
温度差が激しい欧州各国のウクライナへの対応だが、潜在意識として、1938年のミュンヘン会談の再現を避けたい気持ちは共有しているという。ドイツのヒトラーが、チェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求。チェコスロバキアの意向そっちのけで、これ以上の緊張拡大を避けたい英仏などがドイツの要求を受け入れた会談のことだ。細田氏は「ウクライナのいないところで、ウクライナの運命を決めてはいけない、というのが欧州の共通認識だ」と語る。そこには、大国の都合で、自国の運命が左右される経験を重ねてきた欧州諸国の苦渋の歴史があるという。しかし、ウクライナについては、米ロの二国間で話が進み、欧州が蚊帳の外に置かれてしまうことも危惧される。だからこそ、NATOや欧州安全保障協力機構(OSCE)など様々なレベルでの協議が開催されているのだ。
そのチェコに住む細田氏だが、ウクライナから物理的距離のあるチェコの専門家たちは、軍事侵攻を懸念する指摘もある一方、「ウクライナ情勢は依然、差し迫った危機に直面していない」とも分析しているという。細田氏はこの分析について「米ロは今、お互いに力を見せつけ合っているが、ロシアは実際にはウクライナを取らないだろうという見方です。やるなら、2014年にクリミアを併合したように、国際社会の気付く前に、本格的な武力衝突に至らないように準備されたハイブリッド戦により静かに既成事実化するはずだろうという指摘もあります」と語る。
そのうえで、細田氏は今回のウクライナ危機は、日本にも一つの教訓を与えていると語る。「身近な脅威と言えるロシアに対する対応ですら、欧州は一枚岩になれません。ましてや、遠い中国に対し、欧州が結束して日本を助けに来てくれることは想像しにくいのが現状です。中国を牽制する国際環境を作るうえで、欧州各国は助けになるでしょうが、欧州有志国の関与を制度化する努力が必要となります。つまり、価値の共有に加えて、目標や手段の共有も必要になるでしょう。いずれにせよ、現状では、反中姿勢が増加していると言っても過度な期待は禁物だということです」
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