細田氏によれば、欧州連合(EU)27カ国のウクライナ情勢への反応には、大きな温度差がある。ロシアに強い危機感を抱いているのが、バルト3国とポーランド、ブルガリア、ルーマニアだという。いずれも、ロシアが間近に迫る位置関係にある。これらの国々は、「ウクライナを救え」と訴えてはいるが、「自分たちの身も危ない」というのが本音だ。米国防総省は今回の米軍増派が、ルーマニア政府の強い要請を受けたものだと明らかにしている。ポーランドも常々、米軍が自国に常駐することを望んでいる。オバマ米政権が2009年9月、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を、ポーランドとルーマニアに設置する構想を発表、ルーマニアの施設は2016年から北大西洋条約機構(NATO)の指揮下で運用されているほか、ポーランドのものは、本年末に運用開始予定だ。
細田氏は「これらの国々は、ウクライナに武器を供与し、国際社会でウクライナを救えと訴えています。ウクライナのNATO加盟の道を閉ざすな、とも主張しています。でも、自分たちの軍をNATO加盟国ではないウクライナに派遣する考えや能力はありません。彼らの関心は、米軍の欧州防衛への関与をどれだけ確証できるかにかかっているのです」と語る。意地悪な見方をすれば、こうした国々は米軍のコミットを獲得するために、ウクライナ情勢を政治的に利用している側面がないとは言えないもかもしれない。
一方、ウクライナ情勢について「温度が低い国々」には、地理的に離れたスペイン、ポルトガル、イタリアなどが該当するという。2014年のクリミア併合後、ロシアとの経済関係を重視したイタリアはEUの対ロ制裁に反対した。今回、こうした国々は、NATOやEUが決めたウクライナ情勢を巡る方針に反対はしないが、自ら独自の政策や外交を発表する機会はほとんどないという。細田氏によれば、イタリアの主要企業25社のトップらが1月後半、ロシアのプーチン大統領との間で、経済協力拡大協議をオンライン形式で行い、ウクライナ情勢など、自国の安全保障とは関係ないという雰囲気が流れている。