経済・社会

2022.02.01 12:00

マスクをしない米軍には通用しない「郷に入れば」の論理


だから、米本土で新型コロナ対策が緩和されれば、同じように海外に駐屯する米軍関係者のコロナ対策も緩和されるという論理になる。実際、基地の内外でマスクをしない米軍関係者の姿について、米国の知人は「米本土も全く同じ状況だ」と語る。別の知人は「在日米軍だけではなく、海外に駐屯する米軍はどこも同じ状況だと思う」とも語る。

日本のなかに「米軍人が日本で好き勝手なことをやるなんて、とんでもない」という声があるように、米国にも「なぜ、米国人が外国のために命を賭けなければならないのか」という声がある。米国は、この不満を抑えるため、海外に駐屯する米軍関係者の便宜を最大限払ってきた。例えば、戦後から2000年まで接収が続いた「神奈川ミルクプラント」。在日米軍関係者とその家族のために、乳製品を供給し続けた。別の日米関係筋は「戦後の不自由な時代、日本に勤務する米軍関係者に配慮した施設だった。ほとんどの米国人は、ミルクとアイスクリームが大好きだから」と話す。同じように、基地内にゴルフ練習場を設けるケースも数多い。

また、元米政府当局者は「米国人は、あまり過程にとらわれない。要は日本を守れば良いのだろう、という発想だ。日本を守る目的を達成するなら、後は自由にやらせてくれ、と考える米国人も多い」と話す。在日米軍には定期的に入れ替われる幹部や兵士とは別に、日本に定着し、ずっと在日米軍で勤務する軍属もいる。こうした軍属を中心に「マイルール」を押し通す文化が生まれることもあるという。米側が日米協議の場で、新型コロナの検査免除措置を明確に伝えなかった背景には、「マイルールを守りたい」という意識が働いたのかもしれない。

もちろん、日本人が怒るのは当たり前だ。「郷に入れば郷に従え」ではないが、日本で好き勝手なことをする外国人を見て、「理解しよう」と考えるわけがない。岸田内閣も、日本人の怒りを当然だと考えたからこそ、林外相が1月6日にブリンケン米国務長官に電話し、対策強化を求めることになった。

外務省は1月9日、「日米両国は、日米合同委員会の下、新型コロナウイルス感染症の拡大の対処及び最小化のため、必要に応じて関連事案の情報を共有し、追加的な措置に関して緊密に協議するため協力する」と発表した。松野官房長官も31日の会見で「政府としては引き続き米側と緊密に連携しながら、施設区域内外における今後の新型コロナウイルス感染防止対策の徹底のため取り組んでいく」と語った。しかし、米軍の駐留が続き、米国に「俺たちが日本を守ってやっている」という意識が残る限り、似た問題がこれからも繰り返される可能性は高い。

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文=牧野愛博

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