同論文ではこの問題に関して、204の国と地域を対象に、これまでで最も包括的な世界規模の分析をおこなった。これによると、薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)は2019年、推定127万人の直接的死因となった。
さらに研究チームによれば、同年に耐性菌感染に関連して亡くなった人の数は約500万人にのぼった。ただしこの数字には、耐性菌が直接の死因でない死亡件数も含まれる可能性がある。
どちらの指標をみても、薬剤耐性が2019年の主要な死因の一つであることは間違いない。薬剤耐性菌が直接的死因と判断された件数では12位、関連死の件数としては3位(虚血性心不全、脳卒中に次ぐ)となっている。
薬剤耐性による死亡のうち、原因となることが多い病原体は6種類ある。具体的には、大腸菌(E. coli)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)、肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(A. baumannii)、緑膿菌(P. aeruginosa)が、合わせて約75%を占めた。また、7種類の病原体と薬剤の組み合わせが、それぞれ5万人以上の命を奪った。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、調査された88種類のなかで最も危険な病原体と薬物の組み合わせであり、2019年には単独で10万人以上の死の直接的原因となった。
論文共著者の1人である、ワシントン大学保健指標評価研究所のクリス・マレー(Chris Murray)教授は、今回のデータは「薬剤耐性の真の規模を明らかにする」ものであり、緊急対応が必要であるという「明白なシグナル」だと述べる。
抗生物質以前の時代には、紙で手を切るほどのささいなことでも致命傷になりかねなかった。細菌感染に対して信頼できる効果的な治療法がなかった頃には、出産は今よりはるかに危険だったし、性感染症はしばしば不治の病として重い障害や死を招いた。また、どんな手術も深刻なリスクを伴っていた。これらは、現在ではありふれたささいな脅威でしかないが、薬剤耐性が拡大することにより、これらが再び命の危険を伴う事態となるかもしれない。また、手術や、医学的処置としての免疫機能抑制(がんの化学療法や臓器移植の準備)の実施には、より細心の注意が必要になるだろう。