未来に翻弄されるばかりでいいのか?
半導体問題の経済全体への悪影響の懸念から、米国および日本、EUは、相次いで、半導体企業誘致の政策を打ち出している。
しかし、ここ1〜2年に新設する半導体工場が稼働するのは2025年前後になるといわれる。後手に回っている感は否めない。国策主導によって、将来の需給バランスが崩れる恐れもある。
今回の問題の芽は、新型コロナウイルス流行とは関係なく存在していた。本当の問題は、「起こりうる未来」への想像力を欠き、必要な備えを怠ったことにある。
先が見えない時代だからこそ、未来を洞察する能力の差が大きな違いを生む。しかし、未来は不確実な要素があまりに多く、確かな予測は難しい。
シナリオ・プランニングとは何か
では、どうすべきか。未来を洞察する手法の一つとして、シナリオ・プランニングという方法がある。
シナリオ・プランニングとは、政治、経済、社会、テクノロジーなどの動向を多角的に分析して、複数の起こりうる未来をシナリオとして描き、戦略策定に活かす手法である。
未来の不確実性は、高まるばかりだ。シナリオ思考を働かせ、未来のリスクに対して視野の広い強靭な戦略をつくる重要性はいっそう増しているといえるだろう。
シナリオ・プランニングはもともと軍事戦略のために開発された。1970年代初めころから企業が戦略策定に取り入れるようになった。シナリオ・プランニングの成功例として、石油メジャーのロイヤル・ダッチシェルのケースが知られている。シナリオ・プランニングによって戦略を練った同社は、1970年代前半に起きた世界的な石油危機をライバル企業のどこよりも巧みに乗り切り、業界内のポジションを一気に高めた。
シナリオ・プランニングの目的は、未来の予測ではない。複数の未来シナリオを作って未来の可能性をリアルに想像することで、戦略思考の枠を拡げたり、現在の戦略の弱点を洗い出し戦略の強度を上げるといった目的で活用される。戦略そのものではなく、戦略をつくるためのコンテクストをシナリオは与えてくれるのである。
シナリオ思考とは、複数の異なる未来の可能性を想定し、What if (もし〜なら)を考えることでもある。逆に、起こりうる未来を狭く絞り込んで戦略や計画を立てることは危険だ。しかし、現実にはよく起きる。