東京電力の現場チームは、2008年の時点で、福島第一原発に巨大な津波への対策が必要だと内部で提言をしていた。にもかかわらず、当時の東電幹部はそれらの対策を先送りしていたことが、東電刑事裁判の証言で明らかになっている。
実は、茨城県にある日本原電の東海第二原発は、ほぼ同時期、東日本大震災の3年前に巨大津波への対策を行い、悲惨な事故を免れていた。リスクを甘く見て、起こりうる未来に備えなかった一部の東電幹部の「一点張り」の態度が、2011年3月11日に起きた取り返しのつかない悲惨な事故を引き起こした可能性がある。
ジェイ・オグリビーというレジェンド
昨年冬、筆者が関わるビジネススクール(多摩大学大学院MBA)は、シナリオ・プランニング界のレジェンドの1人、ジェイ・オグリビー氏をZoom上でお招きし、講演をして頂いた。
オグリビー氏は、1980年代後半にエール大学で哲学を教える教授職から転じて、シナリオ・プランニングの第一人者であるピーター・シュワルツ氏らとグローバル・ビジネス・ネットワーク(GBN)を創立し、シナリオに基づく未来展望について多くの企業や政府機関に対してアドバイスをしてきた著名なエキスパートだ。
今回の講演テーマは、「地球温暖化とシナリオプランニング」。オグリビー氏がいまもっとも関心を持っているのが、地球温暖化と気候変動の問題であり、同氏は近年エール大学と共同でシナリオ・プランニングのプロジェクトに取り組み、地球温暖化の問題を検討してきた。
オグリビー氏とのパネル・ディスカッションには、紺野登氏(多摩大学大学院MBA教授)と、オグリビー氏の教えをうけモルガン・スタンレー銀行のシナリオ・プランニング・チームを統括したエリック・ベスト氏が参加した。筆者はモデレーターを務めた。紺野登教授はシナリオ・プランニングの実務的な専門家であり、オグリビー氏と共同で論文を発表するなど深い交流関係をもつ。
地球環境問題の真の脅威とは?
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オグリビー氏は、北極で起きている地球の生態系への脅威について次のように語った。
「北極の氷帽(ICE CAP)は、過去40年で10年毎に約13%のペースで減り続けています。このままでいくと、2035年ごろまでには北極の氷は消滅するでしょう。もし北極の氷が失われれば、北極などの地表の氷が太陽光を反射して気温の上昇を抑えている『アルベド効果』が失われます。大気の温度はさらに上昇し、シベリアの永久凍土も溶け出して、大量のメタンが地表に放出されます。
メタンによる大気温の上昇の影響は、二酸化炭素よりもはるかに大きく、破壊的なダメージをもたらします。北極の氷帽の減少とメタンの放出とは、お互いが自己強化し合うポジティブなフィードバックループです。不可逆的で元には戻らない現象であり、歯止めが効かなくなります」
北極の深刻な現状を踏まえると、「今後どこかの段階で、世界は『ジオ・エンジニアリング』の導入に向かうことは間違いないでしょう」とオグリビー氏は言う。