ジオ・エンジニアリングとは、大気中の二酸化炭素を回収したり、宇宙に鏡を設置して太陽光を反射したりするような、地球温暖化現象を人工的にコントロールするための技術や施策のことである。
シナリオ・プランニングのプロジェクトでは、分析を通じて「予め決まった要因(pre-determined elements)」を特定する。未来シナリオを考える上でのこの因子の重要性に近年オグリビー氏はあらためて気づく機会があり、注目しているという。予め決まった要因を特定することで、未来の展開がよりクリアに理解できるようになるということだろう。
オグリビー氏がエール大学とプロジェクトに取り組む中で、地球温暖化の問題における「予め決まった要因」として、ジオ・エンジニアリングが浮かび上がってきた。
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「5年ほど前に、エール大学においてジオ・エンジニアリングに関するワークショップを行いました。その際に、大量の文献を読み込み、ジオ・エンジニアリングの抱える問題が見えてきたのです。それは、『勝者が出る一方で、敗者も生まれてしまう』ということです。ある地域はジオ・エンジニアリングの恩恵を得ても、他の地域では台風や干害などひどい災害に見舞われる恐れがあります。何が起こるかははっきりと分かりませんが、勝者と敗者が生まれることは間違いないのです」
つまり、ジオ・エンジニアリングの技術が進歩し本格的導入が進んでも、地球温暖化問題の根本的解決にはならないということだ。
地球温暖化を救う「新しい世界秩序」は生まれるのか?
ジオ・エンジニアリングによって「勝者と敗者が生まれる」。そこで生じる敗者を、誰がどうやって救うのかという難しい問題が持ち上がる。
オグリビー氏の提案があった。「世界に必要なのは、『ブリュッセル化を伴わないグローバリゼーション』です。特定の政府に紐付かない『新しい世界秩序(New World Order)』が必要なのです」。ここでいう「ブリュッセル化」とは、EUを中心とする権力体制を象徴するのだろう。
「WHOやIAEAのように、特定の政府に紐付かない世界的な組織の例は多くあります。今回のコロナのワクチン開発は世界的な協働による成功といっていいでしょう。もし、この地球温暖化問題を解決するための新しい種類のグローバルな秩序ができなければ、私たちは大きな困難を抱えるでしょう」
地球温暖化問題の解決には、グローバル規模での国家間の協調が必要なことは論を待たないだろう。しかし、現実的にはうまくいっていない。
2021年秋にグラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えることが目標として明記された。それは、2015年のパリ協定からの前進であり、今回のCOP26の重要な成果とされている。
しかし、その目標達成には、さっそく疑問符がついている。もし仮に、COP26での各国の約束がすべて果たされたとしても、今世紀末までに地球の平均気温は2.4度上昇すると試算されているのだ。先進国と途上国の対立も目立った。2050年までのカーボンニュートラル達成という目標に対して、途上国は強く反発した。先進国から途上国への資金援助なしでは達成は難しいからだ。COP26は、目標は決まったものの、目標達成の具体的な道筋は見えないままという結果となった。
既存のCOP26が必ずしもうまくいっていない中で、現実的に、オグリビー氏の言うような新しい国際的な協力体制が、どうすれば実現できるのだろう? こうした疑問が頭をよぎる中で、オグリビー氏はさらに踏み込んだ仮説を披露した。