金沢では「それ」ができる。夜の美術館が見せたポテンシャル

撮影:下家康弘 提供:金沢21世紀美術館

閉館時間を迎えた17時過ぎ、ある美術館でひとつの「実証実験」が行われた。

館内にひとり、ひとりとゲストが入っていく。ラグジュアリーブランドの日本代表や大使館関係者、アートに精通した起業家やクリエイター……。エントランスでは、少しフォーマルに装った彼らを、ウェルカムドリンクのシャンパンと特別なアートピースたちが出迎えた。

会場となったのは、金沢21世紀美術館。プリツカー賞を受賞した建築ユニットSANAAの代表作としても世界的に知られる、日本屈しのアートスポットだ。静かに降る雨が、ガラスの外壁に囲まれた空間を神秘的に演出していた。


撮影:下家康弘 提供:金沢21世紀美術館

この日行われたのは、文化庁が主導する「文化資源の高付加価値化促進事業」の実証実験。富裕層を含む訪日旅行者の長期滞在や消費拡大を促すため、上質な観光サービスを模索する取り組みだ。全国22カ所で事業が採択され、1件あたり2000万円の予算をもって実験を行い、文化庁がその企画性、事業性、実行性などを検証・検討する。

金沢市では「公益財団法人金沢芸術創造財団」が手を挙げ、美術館を舞台にした“アート×食×工芸”の体験を提案。10月25日、「光庭での晩餐とコレクション鑑賞の夕べ」という名で、現代美術をプラットホームに活躍している約25名のゲストを招いたイベントが行われた。

美術館で、クリエイティブな食体験


ほどなくすると、ゲストたちは美術館の奥に通された。加賀友禅をモチーフにしたマイケル・リンの壁画の前に設けられたロングテーブルに着席。長谷川祐子館長の挨拶からディナーがスタートした。

「今日の催しは、いつもと違う美術館の使い方をしようというものです。展示室の中だけでなくパブリックスペースや中庭など外も使います。開館以来初めてとなる館内でのディナーをはじめとして、コレクション観賞、コンサートなどを予定しています」

料理を手掛けたのは、金沢市内にあるA_RESTAURANT(ア・レストラン)の高木慎一朗シェフ。高木氏は、金沢の老舗料亭「銭屋」の2代目にしてフレンチの巨匠アラン・デュカスなどとも交友があり、日本料理をベースに世界中のシェフとコラボレーションしたり、最先端の調理法を取り入れたりと、実験的な食体験を提供している。
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文=鈴木奈央

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