経済・社会

2022.01.22 11:00

ヤフーと大崎町に学ぶ。企業と自治体によるサーキュラーエコノミーの実践


大崎町発のリサイクルシステムの構築へ


世界にある焼却炉の3分の2が日本国内にあると言われる中、生ごみや草木の焼却に関して、植物は成長の過程でCO2を吸収するため、焼却してもカーボンニュートラルになるという考え方がある。

しかしその一方で、生ごみは水を多く含んでいるため燃えにくく、よりエネルギー密度の高い助燃剤が必要になり、化石燃料由来のプラスチックなどを混ぜて燃やしているそうだ。

こうした現状に対する違和感は、大崎町のリサイクルシステムを展開する目的につながっている。そもそも生ごみを燃やさなければ、助燃剤となるプラスチックを一緒に燃やす必要がない。生ごみを燃やさずに分別すれば、プラスチックも燃やさず資源として循環させる選択肢ができる。

地域を超えて広域で連携することで、ごみの減量化が進み、焼却炉の数も減らせるのではないか、と松元さんは話した。

一般社団法人大崎町SDGs推進協議会 専務理事の齊藤智彦さんからも、リサイクルシステムの構築に向けた背景についてお話があった。

齊藤:こういったビジョンを実際に展開していく中で課題もありました。これはあくまでも仮説であって、実際の環境評価は大崎町という一自治体だけではできていない現状があります。どれくらいCO2排出量を削減できるか、環境負荷がかかるのかについて言い切れていないのが現状です。

この大崎町のリサイクルシステムを地域を超えて展開するためには、そういった部分も明らかにしなければならない。だからこそ、実際に研究機関とも協働し、しっかりとデータを測っていくところから活動をスタートすることになりました。


具体的に、研究体制として、元南極観測隊の大岩根尚さんとともに「サーキュラーヴィレッジラボ」というプログラムを実施し、研究機関と環境評価などの環境に関する共同研究を行う予定だ。

また、実際に住民の生活をより良くしていきたいという気持ちで、大崎町のリサイクルシステムだけでなく企業と連携して商品自体にもアプローチしていこうとしている。循環型社会の構築に向け、連携先を公募し、企業や団体とともに環境負荷が低くリサイクルに適した素材・製品などの開発や実装に向けて動いている。

行政と企業のコラボレーションが生み出す、脱炭素社会


最後に、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教の高木超さんをファシリテーターに、登壇者によるクロストークが行われた。

高木:すでに海外で大崎リサイクルシステムを展開している事例から、大崎町の取り組みの汎用性を感じました。実際に、インドネシアで大崎町のシステムを伝える中で、文化の違いを感じることはありましたか?

松元:昔からインドネシアでは、バナナなどの有機物は捨てると微生物が分解してくれて川が浄化されると教えられており、ごみを川に捨てる習慣があったため、プラスチックも川に捨ててしまうという習慣があるみたいですね。結局、教育を通してうまくごみ処理について伝わっていないからそうなってしまっているだけで、コミュニティの協力があれば、うまく分別やリサイクルを実践できるのではないかと感じています。



高木:今回のタイトルにある「企業と行政の連携」は議論のポイントだと思っています。ヤフーと大崎町の連携だけでなく、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会と大崎町の連携もあると思うのですが、齊藤さん、こういった公民連携を進めていく中で心がけていることや、困難だったことはありますか?

齊藤:僕らの組織は、今回のように企業の方々と行政がうまく付き合うためのハブが必要だなという意識から設立されました。企業と行政をうまくつなげるために、それぞれの言語や論理の違いを丁寧に理解しなければならないなと思っています。

特に行政の場合は、地域住民の考え方や気持ちと寄り添っていかないといけないので、急に大きな変化が来たときに住民の方々との関係性が崩れると大変なんですよね。企業は、利益を上げていかなければならない面や、スピードの違いなどをうまく調整していくのが重要だと思います。

僕らは地域側に根を下ろしながら企業の方々と連携しようとしていますが、どういった自治体なら付き合いやすいかを長谷川さんに伺いたいと思いました。

長谷川:私も、ヤフーではない団体で行政とつなげるハブになるようなことを行っていますが、齊藤さんが仰ることは大事な点だと思います。コーディネーターがいるだけでなく、誰がどれだけコミットするかが大事だと思っていて。行政も基本的に2、3年で担当が変わることもあるので、企業と行政の間になる人が調整して物差しを揃え、担当が変わってもちゃんとつなぎ役になるのが大事だなと思います。

そうした担当者との関係性の話から、約13年間リサイクル率日本一の状況が続いている大崎町ではなぜ取り組みが持続しているのか、その背景についてお話があった。

松元:先ほど、大崎町では住民主導だという話をしました。その代表組織が衛生自治会です。今までリサイクルが続いてきたのは、衛生自治会の皆さんに対して行政が相談しながら様々な取り組みを継続していった流れがあります。この関係性が重要だと思いますね。

長谷川:齊藤さんは、これまで色々な地域で取り組みをされてきたと思いますが、サーキュラーエコノミーの取り組みや大崎町に辿り着いた理由や経緯を伺いたいです。

齊藤:単純な理由としては、母親が鹿児島出身で、昔から鹿児島で仕事をしてみたいという気持ちがありました。そうした中で、前の地域の仕事を後任に渡し、次のステージに移ったタイミングで私自身に子どもができました。次の世代につながる仕事がしたかったのですが、大崎町や松元さんと出会い、約1万2000人という比較的小さな規模の自治体の方々が世界規模で物事を語る姿に驚きました。

当時はSDGsやサーキュラーエコノミーという言葉を使おうとは思ってもいなかったのですが、突き詰めていくと時代の潮流とも即している可能性があり、自分も挑戦したい領域だったので、ぜひやらせていただきたいと大崎町にお願いし、今に至ります。

松元:色々なところと連携してご縁をいただき、様々な可能性があるなと妄想が膨らみます。持続可能な関係性を続けていきたいと自治体側として思うのですが、企業側はそういったことを求めているのか、また可能なのかを長谷川さんに伺いたいです。

長谷川:個人的には、そういった関係を続けていきたいと思っています。SDGsやカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーってすぐに成果が出るものではないですよね。長い年月をかけて人間が壊してきてしまったものは、すぐには再生できないので、長い目で連携を見ていかないといけないなと思います。

また、企業や行政、間に入っている団体がそういった意識を持って、関係性を作っていくのが大事だと思っています。さらに次世代につなぐために、次の担当にもきちんとバトンを渡していくことです。企業、特に株式会社だと様々なステークホルダーがいますし、ユーザーからも地域に貢献しているかどうかなど様々な視線を強く感じているので、きちんと成果を見せていくことが大事だと思っています。
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