テクノロジー

2021.12.25 10:00

脱炭素だけじゃない 低料金のEVカーシェアで地方都市を救え!

河村 優

地方が抱える問題を解決するイノベーション

フランス国内の公共交通網は、首都パリを中心として放射状に張り巡らせる首都中心型として機能している。言い換えれば、パリを出発点とする交通手段は非常に発達し利便性が高いが、パリを経由しない場合の交通手段は極めて不便だ。フランスの新幹線(TGV)の発達によって、大都市間を結ぶ交通が発達し移動時間が短縮される一方で、地方では廃止や削減される路線が相次ぎ、大都市とは全く逆の現象が起こっている。

国内の多数の小都市や村では、公共交通手段が不足し、住民は自動車の使用を余儀なくされている。地方の小都市や村における平均収入は、大都市との比較では低く、自動車維持にかかる費用が住民の家計を圧迫している現状がある。

2019年に施行された「移動手段の方向づけにかかる法(La loi d’orientation des mobilité)」は、「容易で低料金かつクリーン」という概念により、国内の移動手段に関する政策をより近代化すると同時に、このような現状を根本から変える目的で導入された。また、「クリーン」な交通手段は、2040年に化石燃料車の販売を禁止する国内法に準ずる目的も兼ねている。

同法導入の背景には、炭素排出の30%を占める輸送部門における交通手段の改革の必要性に加え、地方の公共交通手段が等閑にされてきた現実を踏まえ、「国内のすべての人へ均等に移動手段を」という目標を掲げ、当該政策を根本から見直す必要性が唱えられたことがある。

フランス政府の調査によると、4人に1人が通勤手段がないことが理由で雇用機会を失っているという。そのうえ、公共交通手段の過疎化が進む地域の80%の自治体は、日常の交通手段の提供に関して何の対策も行っていないようだ。

このような地域における世帯の生活費の内訳では、交通費が最も高い割合を占めている。国内の平均では、10人に7人が自動車で通勤しているという状況下、政府は国内の移動手段の改革を行い、これまで公共交通手段から遮断されてきた地域に焦点を当て、すべての国民へ均等に低価格な移動手段を提供する政策を打ち出した。

2018年に政府が発足したフランス・モビリテ(France Mobilité)は、輸送業界、スタートアップ、地方自治体、投資ファンド、産業団体など、モビリティに関わる全てのプレイヤーへ開かれた共同体で、環境負荷を削減する交通手段の開発を推進するプラットフォームである。

このフランス・モビリテは新法を施行するにあたり、国内におけるモビリティ関連プロジェクトの推進役を担うことになり、企業・研究機関や一般から広く革新的なプロジェクトの募集・資金援助を行っている。なお、フランス政府は「移動手段の方向づけにかかる法」により、2022年までに交通手段改善プロジェクトへ130億ユーロ(約1兆7000億円)の投資を計上している。モビリティ・プロジェクトの選考条件は、移動手段の改善に貢献する共同体の構築・活性化、移動手段における革新的な取り組み、特に公共交通手段の不足している地域を対象に、全ての人へ移動手段を提供することに貢献することとなっている。

フランス・モビリテにより、上述の条件にかなうプロジェクトとして選ばれたスタートアップ会社の一つに、小さな街や村が集まる地域を対象としたカーシェアリングを提供するMOBIDREAMがある。2019年に設立された同社のプロジェクトは、超小型のEVのセルフ・サービスレンタルだ。特に人口密度の低い地域をターゲットとし、地元住民の日常生活における移動の簡易化に貢献する「脱炭素モビリティ」である。
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文=藤原ゆかり

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