MOBIDREAMの最高経営責任者(CEO) Philippe BECOULETさんは9月、フランスのロワール地方にある小さな街や村を対象に、地元住人、市・村役所などの自治体へEVの試乗を兼ねた同社プロジェクトのプロモーションを行った。今回、そのうちの一つ、サンセール (Sancerre)という人口2000人に満たない村の広場で行われた試乗会の模様を取材し、BECOULETさんへ話を聞いた。
すべての人へ低料金で移動手段を
地元住民に説明を行うPhilippe BECOULETさん(右)
MOBIDREAMのカーシェアリングは、16歳以上の若者、独身者、母子・父子家庭などをターゲット層としている。若者層では求職活動や職業斡旋所・仕事の面接へ、あるいはちょっとした外出に。独身者や母子・父子家庭では、幼稚園へ子どもの送迎、病院や薬局、買い物、友人宅訪問などへの利用を提案する。超小型のプラグインEVは、最高時速45km、自動車免許は必要ない。
BECOULETさんは、「自動車の所有と維持には、かなりのお金がかかります。特に収入の少ない若者や独身世帯には大きな負担ですが、サンセールのような公共交通手段が非常に限られている場所では、自動車がなければまず仕事に就くことが難しい。日常の買い物さえできない。MOBIDREAMは、自動車を買う経済力のない人たちが、孤立して社会から取り残されないようにという、ESGに配慮したプロジェクトでもあります」と語る。
MOBIDREAMは、カーシェアリングを利用し、自動車を所有しないことによる経済効果を強くアピールしている。同社の見積もりでは、年間自動車所有とその維持にかかる経費は、保険、車庫代、駐車料金、修理代、車検代など最低3800ユーロ(約50万円)。車を持たず、カーシェアリングを利用することで、およそ2500ユーロの経費が節約できるとしている。
BECOULETさんがカーシェアリング事業を考案したきっかけは、大都市ではなく公共交通から遮断されている地域で、経済的に車を所有するのが難しい若者や、車がないために孤立しがちな人々へ容易に移動できる環境を提供したかったからだ。
今後の事業展開としては、各地域の自治体との協力のもと、地方におけるカーシェアリング網を構築することで、一時間あたりの使用料金をできるだけ引き下げ、低所得層が利用しやすいサービスを提供したいという。
MOBIDREAMのカーシェアリングによる利点は他にもある。EVの使用はカーボンフットプリントを削減し、最高時速45kmという設定も安全性においては理想的だとする。車が少ない道では、制限速度を守らずスピードを出す人が多く、見通しの悪い場所などの事故多発地域も多い。MOBIDREAMのようなカーシェアリングが普及すれば、スピードの出し過ぎによる事故の削減にも貢献する。
また、同社のEVは新型コロナウイルス感染症対策も考慮。車内の運転席には「殺菌システム」が設置され、利用ごとに細菌やウイルスを消去する仕組みだ。
外から見るより広い車内
このほど各地で行ったプロモーションでは、自治体や住民の反応は非常に良好で、多数の自治体がレンタルステーションの設置に興味を示しているそうだ。ちなみに、今回の取材地サンセールの村長もそのうちの一人だという。
サンセールは最寄りの鉄道駅が非常に遠いことや、接続バスが少ないこと(その数少ない公共交通も、ストや気候により急な運休が起こる)、また丘の上に立つ村のため上り坂が多いことなどがあり、車を所有していない人たちには非常に暮らしにくい。そのため、MOBIDREAMによるカーシェアリングポイントが村に設置されれば、地元の人にとって利用価値は非常に高い。