特に人権に関しては、かねてより指摘されてきた新疆ウイグル自治区などでの人権侵害を巡る問題に、テニスの彭帥選手の失踪騒動も加わって、IOC(国際オリンピック委員会)の対応にも批判が高まっている。
思えば、東京2020も人権に関わる様々な問題がクローズアップされた大会だった。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の人権労働・参加協働ワーキンググループ(以下、WG)で座長を務め、準備対応の取りまとめを担ったスポーツ弁護士の山崎卓也氏に話を聞いた。
オリンピック史上初づくしの大会に
──人権労働・参加協働WGも2021年12月末に公表された持続可能性大会後報告書をもって活動終了を迎えました。まずは感想をお聞かせください。
東京2020はご承知のとおり、コロナ禍において、五輪史上初めての環境条件のもとで開催されました。
まずは1年の延期です。決定の過程でも数々の混乱がありましたが、延期になった1年の間にBLM(ブラック・ライヴズ・マター)、その他アスリートによる政治・社会問題への発信など色々なことがあって、人権に関する考え方や環境に大きな変化がありました。
東京五輪から、競技会場などで人種差別への抗議を示す「片膝付き」のようなジェスチャーやウェアなどへのプロパガンダの表示といった、政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じた五輪憲章第50条が条件付きで一部緩和されるという、変革も起きました。
また、参加アスリートのメンタルヘルスの問題や、SNSなどにおける人権侵害といった新たな深刻な課題が突きつけられました。
大坂なおみ選手(Photo by Peter De Voecht / Photonews via Getty Images)
東京2020はオリンピック・パラリンピックで初めて、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った大会でもありました。
指導原則について開催都市契約に含まれたのは2024年のパリ五輪からですが、組織委員会は東京2020でも実施することとし、このWGも設置されました。スポーツ・大会関係者のほか、人権・労働・サステナビリティ関連のソーシャルセクター、教育研究者などの外部有識者を加えたメンバーで構成されました。
人権や多様性の尊重について、これさえやっておけばよいといったルールや正解はありません。不祥事も含め、様々な難局に直面する中、「できていないことがあればそれを認めたうえで、よりよい明日を目指す」といった価値観が大切で、そのプロセスを国内外の皆さんと対話しながら共有していくことが求められていたのだと思います。
オープンな姿勢でこの価値観とプロセスが共有できれば、オリンピック・パラリンピックは多くの人々を巻き込む原動力になるイベントです。
無観客開催の影響で実行や検証の範囲は限定されましたが、このような体験を会場での観戦を通じて少しでも実現したいと準備してきたこともありました。タスク自体は終えましたが、今回の活動を大会のレガシーとして、IOCなどとも協力し、将来の大会組織委員会、もちろん日本の皆さんにもお伝えしていきたいです。