東京2020のハイライト「ジェンダー問題」
森喜朗氏(Photo by Carl Court/Getty Images)
──北京五輪で人権問題がクローズアップされています。新疆ウイグル自治区の問題、表現の自由といったところが問題となっていますが、東京五輪はいかがでしたか?
東京2020は、参加アスリートの女性比率が48%という五輪史上最もジェンダーバランスの取れた大会となりました。女性アスリートのサポートや性的ハラスメント目的の撮影の禁止、ジェンダー平等に配慮した報道の呼び掛けなど、様々な取り組みがなされました。
LGBTQであることを公表しているアスリートも増え、大会運営においてもLGBTQも含めた多様性を尊重し、開閉会式での演出や日本初の常設LGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」と連携した活動や発信なども行われました。
──森元組織委員会会長の女性蔑視発言による辞任も大きな出来事でした。日本社会の男女格差問題を国内外の人々がよく考えるきっかけにもなりました。そこで起きた議論は、どのような結果につながっていますか。
この問題や無観客開催への決定プロセスなどについて、当然WGとしても強い問題意識を持っていました。
WGでは発足時から、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のムーブメントについても議論してきましたし、この出来事の後、組織委員会全体でもリスタート&アクションを掲げ、小谷実可子スポーツ・ディレクターをヘッドとしたジェンダー平等推進チームも設置されました。
このチームとも連携して、組織委員会が東京2020を機に誰もが生きやすい社会を目指すためのアクションを宣言し、国内外の組織や個人にも広く参加を呼びかける「東京2020D&Iアクション」を企画しました。
小谷実可子氏(Photo by Carl Court/Getty Images)
WGでは「上から押し付ける形にならないように」「言葉だけが上滑りしないように」「組織委員会自らが襟を正して」や「個々人が自由に宣言できる環境づくり」といった発言が飛び交い、東京2020のD&Iのアクションワードである「Know Differences, Show Differences. ちがいを知り、ちがいを示す。」にAccept(受け入れる)が必要ではといった“表現の妥当性”のようなところまで、踏み込んだ議論をしました。
ことこの人権やD&Iというテーマに関しては、パートナー企業等の賛同を得ながら、誰もが参加できる“社会的なムーブメント”につなげたいと強く願っていましたが、色々な問題への対応に追われた中で大会関係者中心の実施となりました。
元々組織委員会の業務はほぼこれと言えるほど、いかなる決定・変更にも膨大な調整が求められます。時限的な組織でもあります。大会、組織委員会を取り巻く逆風もご承知のとおりで、その中で奮闘しながらも「対応を間違えてはいけない」「“何か”問題が起きたらどうしよう」といった“恐れ”が常に先に立ってしまったように思います。あらゆる決断、検討や議論さえも避けようとする“空気”を感じました。これではポジティブなイノベーションは起きません。
今回貴重な経験をしたメンバー一人一人が今後それぞれの活躍の場で、東京2020のレガシーとして実践していってくれることを信じています。