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2022.01.15

「何もない」を武器に、鳥取の山奥で県人口を超える村づくりに挑む

日本一人口の少ない県に、県外どころか海外からも客が詰めかける観光施設があるのをご存じだろうか。マクアケ創業者・中山亮太郎の好評連載第14回。


盛り上がっている地域には、必ずと言ってよいほど、強いゴールゲッターとなる企業や団体が存在する。今回は、地元外から多くの人に来てもらいたいと思っている地域の方々への模範例として、鳥取県八頭郡八頭町にある「大江ノ郷自然牧場」を取り上げ、そこから地域活性のヒントを考えたいと思う。

大江ノ郷自然牧場は、山中にあるにもかかわらず、(新型コロナ禍前の数字ではあるが)年間30万人が来場する人気スポットである。鳥取県の人口が約55万人であることを考えると、一つの施設の集客としては突出した数字だろう。

創業者の小原利一郎は、もともとは養鶏業一本で事業を始めた。広大な自然を生かした平飼い養鶏を実践し、都会にはない卵の魅力を打ち出し、徐々に事業を伸ばしていく。そのなかで、「田舎であることはむしろ強みになる」と気づいたという。

日本一人口の少ない県かもしれないが、自分の故郷の町に県内外の人を呼び込み、田舎のよさを体験してもらいたいという強い思いを抱いていた小原氏。里山の自然を舞台に、人が来たくなる取り組みを開始した。

いくつものトライアンドエラーの末に行き着いたのが、パンケーキだ。ちょうど日本でパンケーキブームが勃興し、一大市場になる予感があった。加えてそのころ、里山や田園地帯のレストランにわざわざ出かける人が増えていた。こうした世の中のトレンドを感じとり、自社で培ってきた鶏卵技術と自然あふれるロケーションは武器になる、と捉えたのだ。

超田舎にあるモダンなレストラン施設と、超田舎で取れるとっておきの卵を原料にした、インスタグラムにもとても映えるパンケーキは大いに話題となり、気がつけば人気スポットになっていたという。

そこに至るまで、順風満帆だったわけではない。鶏と触れ合うサービスなども実施したが、その矢先に国内で鳥インフルエンザ問題が起きるなど、抗えない事情による頓挫も経験してきた。ただ、成功に向けての普遍の要素がそこにはあった。私が感じたのは「リスク余力は満額使う」という姿勢だ。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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