その成果として、予測に関する「真実のバージョン」をひとつにすることができた。それによって、予測のエラーレートを下げられるようになったのだ。
パンデミック後のいま、目指すべきは、全社規模で業務をシームレスにすることと、顧客体験を可能な限りフリクションレスにすることだ。小売の将来は、顧客と取引のデータマイニングから始まる。データマイニングこそ、アマゾンを巨大化させたカギだ。
たとえば、英国の靴直販チェーン「Hotter Shoes」のイアン・ワトソン(Ian Watson)最高経営責任者(CEO)は、2021年11月に行われたインタビューで、商品を購入した顧客460万人分のデータベースを同社がどうやって分析したかを説明している。はじめのころは、同社の主な顧客層は55歳以上で、購入客の平均年齢は73歳だった。将来的な成長がなかなか望めないユーザー属性だ。
「2020年は、当社にとって生き残りをかけた1年だった」とワトソンは語っている。「パンデミックが、新しい試みに挑戦する機会を与えてくれた。そこで私たちは、データベースをどう活用すれば、顧客に対して靴以外の商品を販売できるかを考えた」
同社は、主要顧客層よりも年齢の低い消費者層の獲得に力を入れた。その結果、顧客の平均年齢は63歳に下がった。また、顧客データベースを参考にしながら、新しいスタイルの靴を試験的に取り入れているほか、人気商品の製造方法も変更している。
このように、企業が抱えている問題を、各部署が協力しあう方法で検討し、全員が同意できる「真実のバージョン」を探り出すこと(別の言い方をすれば、顧客をどう見るかについて、全社で一致した認識をすること)が、問題解決につながるのだ。
オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、1942年に「創造的破壊」という言葉を生み出し、経済的な大変動のあとにイノベーションが起こる理由を説明した。この概念を、これ以上ないほど劇的なかたちで表したのが今回のパンデミックだ。
2022年における小売業界のテーマは、イノベーションの普及、無駄の削減、よりサステナブルな企業となるだろう。2022年以降の小売業界の繁栄を願っている。