世界中から集まった専門スタッフたちの驚くべき仕事内容について、オットーボック広報担当の佐竹光江氏と技術者として東京2020に参加した中島浩貴氏に話を聞いた。
修理が無料なのにはワケがある
「このサービスが無料であることには、きちんとした理由があります。もしも料金が発生してしまうと、それを払える国と払えない国の格差がひらいて競技の結果に影響が出てしまう可能性があります。すべての国がメカニックを帯同できるわけではないですし、そういった金銭面でのアンフェアをなくすためにも、選手からはお金はいただきません」(中島氏)
実際問題として、修理用のパーツが手に入らない、技術者がいない、選手やチームの資金が足りないなどの理由で、自国で満足なサポートが受けられない国はたくさんあるという。
「前大会の時に我々が修理してから、一度も修理されていない同じ道具が持ち込まれることもあって『これって、前回修理したやつだよね?』などと言うこともあります」(中島氏)
東京2020大会で選手村内に設けられたリペアセンター(写真提供:オットーボック)
しかし、修理と一言で言っても、パラアスリートの装具や競技に使う道具はさまざま。しかも競技の直前、場合によっては競技中に、車いすや競技用の装具が壊れてしまうこともある。そんな緊急事態に備えるために、オットーボックでは万全の準備を整えて挑んでいるという。
18トンの工作機械と1万7300個の修理部品を用意
「東京2020大会には、ドイツの本社から船便でグラインダーや溶接機などの工作機械を全部で18トン運び入れました。選手村に700平米の修理サービスセンターを設置した他、14の競技会場にリペアブースを設けて対応したんです。多様なリクエストに応えるため用意した修理部品は全部で1万7300個です」(佐竹氏)
その数を聞いただけで修理の規模の大きさがうかがえるが、スタッフたちは大会期間中、朝8時から夜の11時までシフトを組んで、あらゆるリクエストに対応。時には試合時間が遅くなり深夜2時過ぎまで待機することもあったそうだ。