最近話題のメタバースとは一体何なのか?

Photo by Alex Wong/Getty Images

どこで聞いたか記憶が定かではないが、ある禅問答を急に思い出した。

「この世で最も大きな話は?」と問われた僧たちが、とてつもない大ボラを競い合うことになり、ついに自分は宇宙を食ったという者の話で決着がついた。宇宙という存在こそ、考えうる限りの最も大きな存在であることは論議の余地はないだろう。と思ったら、そこに後からやって来た者が、宇宙を食った男を食った話をして、全員を唖然とさせた。

メタバースは30年前に誕生


宇宙は英語では「コスモス」とか「ユニバース」と表現するが、コスモスはギリシャ語由来で、無秩序を意味するカオスの逆の秩序や調和を象徴するものであり、ユニバースはラテン語由来で、向きや形を変えるという意味のバース(verse)が、単一を意味するユニ(uni)と結びついたものだ。

最近の宇宙物理学の理論では、宇宙はわれわれがユニバースと考えている単一の存在ではなく、多種・多元的な(multi)存在の一つに過ぎないとする、「マルチバース」という言葉や、複合的な(omni)「オムニバース」という言葉も使われる。

ともかく、万物流転を指すバースが、全体としてどのような形態で起きるかの論議がいろいろされているわけだが、最近はさらに超越を意味するメタ(meta)を付けた「メタバース」(metaverse)という言葉が加わり、世間の注目を浴びている。

フェイスブックの創業者ザッカーバーグが、現在のSNSの進化形としての将来のネットの姿を表現するために使い、ついには社名までメタ(Meta)に変更してしまうまでになると、世間も何事かと関心を寄せるようになる。今年の世界的な家電業界の展示会CES 2022でも、メタバース関連の製品の発表が相次いだ。


salarko / Shutterstock.com


これは彼の発明した言葉ではなく、インターネットが一般に知られるようになった頃の1992年に、SF作家のニール・スティーヴンスンが発表した『スノウ・クラッシュ』という作品の中で、未来のアメリカを支配しているネット世界を指す言葉として使われたものだ。

インターネットが一般化する前の1980年代にSF作家ウィリアム・ギブスンが、パソコン通信などの作り出す初期のネットを見て、人の想像力と電子テクノロジーが一体化した新しい体験を表現する「サイバースペース」という言葉を使い、それを機にサイバーパンクと呼ばれるSFのジャンルが立ち上がったとされる。当時はスティーヴンスンの新語もギブスンのそれと大きな違いはなく、ネット時代が立ち上がって来た時代に差別化のために敢えて作ったように感じられたものだ。

すでに人類は19世紀の末に電話を使って、目の前にいない相手と声でつながる、当時としての超常体験をしており、遠く離れてもう二度と会うはずのなかった相手の声を聞いて、天国と会話しているような幻想を抱く者さえいたという。

パソコンと電話がつながったパソコン通信でも、どこか架空のアリスの国のようなイメージの世界にキーボードで文字を打てば、相手から文字が返ってきて、メールや掲示板のような形でコミュニケーションができたが、それがいずれは昔から未来の電話の姿として想像されていたテレビ電話のようになって行くだろうと人々は考えた。
次ページ > 「サイバー空間」と「マトリックス」

文=服部 桂

ForbesBrandVoice

人気記事