常に作家に選ばれる出版社でなければいけないというのが僕のポリシーです。だから例えば、マンガがウェブで読めるようになり、電子書籍になり、アプリになりという流れがありましたが、講談社は出版社の中でも一番に参入してきました。今回のNFTも、その流れの一つかなと思います。
講談社自体が新しいテクノロジーやプラットフォームに対して積極的で、現場から提案するとすぐにOKが出る。トップの決断が早いんです。
とはいえ電子書籍もアプリも、当初は作家さんからの抵抗が大きく、参加してくれない方もいました。でも結果が出て多くの人に読んでもらえるとわかると、自分の作品を読んでもらいたいし収入も増えるとなれば参加してくれようになる。これを繰り返してきました。
岩瀬:NFTは黎明期で、インターネットでいう98年ぐらい。未知数のところもあるので心配される作家さんも多いと思います。一司さんとしては、NFTも新しい読者体験のひとつとなり、よりたくさんの人に作品を手に取ってもらえる機会になれば彼らを呼び込めるという考えですか?
鈴木:そうだと思います。面白そうだなと思ったらみんな乗ってくる業界なので。すでに一部のクリエイターさんは、NFTにとても興味を持っていて、「読んでもらうきっかけが作れるのであればやります」という方が多いかな。
「本棚に並べる」体験をデジタル上で
岩瀬:このプロジェクトの一番の特徴は、過去作ではなく、新作が出るタイミングで作品をNFT化することです。ファンが将来流行ってほしいという思いでクリエイターを応援し、一緒に作品を育てていくことを実現できたらと思っています。
鈴木:まさに今回の提案で一番グッときたのはそこでした。新作をどう注目させるかは各社が一番考えていること。オンラインで過去作がいつでも手に取れるようになり、新作が読まれないことが増えきたので特にですね。編集部で、「こんなに面白いのになぜ読まれないのか」と議論することもあります。
保有の概念がデジタルの世界に持ち込まれたのは、マンガにとって重要なことです。昔でいう「初版本を持っている」のと同じ感覚をNFTで体現できますね。
岩瀬:私が初めてNFTで買ったアート作品は、世界で3枚しか刷られていないもので、それをデジタルで所有するというのは不思議な感覚です。
所有するアート作品をZoomの背景にしていたら、会議中に「岩瀬さんそれなんですか」って聞かれるようになったんですね。アートを買う目的はそれで半分達成されると気がつきました。
高い車に乗ったり、人気ブランドの服を着たりする人は、それを通じて自分の趣味趣向を表現するわけですが、アートコレクターも同じ。オンライン上で過ごす時間が増えた現代ならば、画像というエディションが限定されたデジタルアートでも十分だなと思うようになったわけです。
撮影=林孝典
マンガについても、これまでは単行本を買って本棚にずらっと並べることで自分の好きなものへの気持ちを表現していたかもしれません。ですがNFTを使えばデジタル上で同じことができるのではないかと考えています。
同じデジタルでも、読むことが目的である電子書籍とは性質が異なるわけです。読者の皆様には、「ヤンマガの初版限定版ページを俺は持ってるんだ!」「コレクションしたい!」と思っていただきたいです。