あるスコットランド人青年を虜にした、日本漫画の「あのシーン」

(左)『ラヴ・バズ』の一部シーン。(右)Getty Images

(左)『ラヴ・バズ』の一部シーン。(右)Getty Images

2020年は、劇場版アニメの大ヒットで『鬼滅の刃』が社会現象化した。アジア各国での公開に続き、2021年には北米、カナダでの公開も決定している。原作コミックスの発行部数累計は1億2千万部を超えた。

経済産業省のデータによると2016年の日本漫画の海外市場規模は11億2900万米ドル(注)。日本・海外両市場での中心的存在は、先述した『鬼滅の刃』など作者の熱がこめられた、上質な少年漫画の大ヒット作であることは間違いない。

だが、日本漫画を世界的なビジネスとして成り立たせているのは、それら大ヒット作だけではない。ある漫画編集者は、こう言い切った。「海面に飛び出した大ヒット作の下に、多種多様な作品が作る“豊かな海“がある。だから日本の漫画には力がある」。

では遠い国にいる漫画読者は、どのように「豊かな海」の中から自分にぴたりと合う漫画と出会い、その何を愛しているのか──。

2019年に福岡で行われた、言語愛好家が世界各地から集う「ポリグロット・カンファレンス」で、ある漫画読者に出会った。スコットランド在住のグレゴール・ウィルソン氏だ。彼の漫画への深い愛情に触れたことで、この連載企画は生まれた。

今回のメールインタビューにウィルソン氏は「漫画も勉強道具として活用した」という日本語テキストで答えてくれた。その美しい日本語表現を、ほぼそのままの形で掲載する。

第2回では、ウィルソン氏が敬愛する漫画家・志村貴子が描く人物の生き様に、氏自身の経験を重ねて語る。文=門倉紫麻(フリーライター)

>第1回 漫画「世界1180億円市場」 スコットランド人青年が見つけた「自分の物語」はこちら

注:平成29年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業におけるコンテンツ分野の海外市場規模調査より

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グレゴール・ウィルソン氏|カリグラフィー作家。1995年生まれ。スコットランド エディンバラ出身・在住。


「そんなことしないよね」、でも「もしかして」の不安


門倉:ウィルソンさんが特に好きな日本漫画である(第1回参照)『ラヴ・バズ』の中で、好きなシーンを教えてください。

ウィルソン:好きなシーンというか、僕にとって一番印象的なシーンは絶対に鋏のシーンです。裏切った側の気持ちも裏切られた側の気持ちもあふれて、怖くて怖くて読みながら泣きました。

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『ラヴ・バズ』より。復帰後の大事な試合の最中に突然自信を喪失した藤は、リングを降りて逃げ出す。町屋は、そんな藤を追いかけて鋏を渡し、「死のう!」(死になさい)と迫る。
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文=門倉紫麻 編集=石井節子

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