神経科学の知見によれば、人は、論理ではなく感情に基づいて決断する。感情が支配するこの時代、売上増加につながる顧客をもっと引きつけたいなら、脳の感情を司る部分に直接訴えかけるようなビジネスストーリーの語り手になる必要がある。
まずは、ストーリーの「最悪」の部分にフォーカスしよう。
「これは一種のサプライズだ」と語るのは、数々の受賞歴を誇るライターのデイブ・リーバー(Dave Lieber)だ。「どんなストーリーも、見せ場は最悪の部分にある。そこを飛ばしてはいけない」
有資格のプロ講演者として活躍するリーバーは、ビジネスにおけるストーリーテリングの技法を教える専門家だ。彼は、個人や企業、業界を対象に、目標達成のためにストーリーを活用する方法を伝授している。
リーバーは、ダラス・モーニング・ニュースのコラム「ウォッチドッグ」の著者としてスキルを磨き、全米レベルの賞を受賞している(彼自身が東海岸からテキサスに移り住んで感じた「カルチャーショック」の話は本当に面白い)。9冊の著書をもつリーバーには、劇作家としての顔もあり、脚本を書いた2作品がダラス・フォートワースで上演された。筆者は、自らがホストを務め、リーバーが講演をおこなった新人ライター向けのカンファレンスで、彼に話を聞く機会があった。
リーバーはビジネスストーリーに関して、こう問いかける。「すぐれたビジネスストーリーにおいては、どん底の部分が何よりも重要だ。それなのに、どうしてここを飛ばしてしまうのだろうか?」
クライアントの問題解決をあなたが手助けしたストーリーをうまく語れば、2分もしないうちに、あなたへの信頼を確立できる可能性がある。
「すぐれたストーリーには必ず、序盤、中盤、終盤がある」と、リーバーは言う。「すぐれたストーリーには必ず、ヒーローと悪役がいる。そして、すぐれたストーリーはたいてい、ハッピーエンドで幕を閉じる。達成したことを象徴し、重要な教訓を授けてくれる結末だ」
「だが、ほとんどのビジネスストーリーの語り手は、ストーリーのなかで最も重要な部分を無視してしまう」と、リーバーは言う。「どん底の部分、ヒーローにとって最悪のパート、つまり、解決されるべき問題に光を当てるのを忘れているのだ」