元ヤフーの「ミスター検索」が、神戸市のCDO補佐官に転身した理由

神戸市CDO補佐官、兵庫大学現代ビジネス学部教授 宮崎光世


シリコンバレー引率が教育に携わるきっかけ


神戸市が宮崎に助けを求めたのは、米国シリコンバレーに大学生ら約20人を1週間派遣してイノベーションの現場を体験させるという施策だった。これには、日本の学生たちにとって縁遠い「起業」を、彼らの将来の選択肢として考えてもらう狙いがあった。

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シリコンバレー派遣事業

宮崎は現地に同行して学生たちの世話をし、彼らから相談を受ける役割を担った。さらに翌年、神戸市は、シリコンバレーでの訪問先のアポ取りや現地イベントの企画まで宮崎に任せることにした。

「学生と話をしていて、自分の経験の特殊性を発見しました。海外でMBAを取得したとか、駐在経験をしたというのはよくあります。しかし、シリコンバレーの主役であるエンジニアの世界に体を半分突っ込んで仕事したのは、自分にとってもかなりユニークな経験でした。

2年目は事業の企画段階から任されたので、学生でもエンジニアの卵を連れていくことにしました。訪問先も彼らに合わせて組み立てました。あれから5年が経過しましたが、かなりの人数が自ら起業したり、スタートアップに参加したりしています。

大手企業への就職を辞退して、スタートアップに就職した学生も5人ほどいます。いまでも彼らは元気に頑張っていますよ。シリコンバレーのエンジニアにとっては、これが当たり前なのです」

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2015年のシリコンバレー派遣事業に参加した宮崎(左端)

ヤフーに在籍しながら神戸市の仕事もしていた頃から、宮崎はデジタルが街をどう変えるのかに関心を持ったという。神戸市の姉妹都市でもあるバルセロナで行われたスマートシティに関する意見交換会にも参加した。

「ネットサービスはGAFAに制覇され、勝負あったという状況です。逆に街づくりなどの公的分野には大きな伸びしろがあります。

バルセロナでは街なかに大量のセンサーやカメラを配置して、いろんな情報を集めています。実はこれが検索サービスの創成期での作業に近いのです。検索結果を見た利用者がどのリンクをクリックしたのかを集めるのは、街なかでセンサーで人々の動きを把握するのと変わりません」(宮崎)

そんなことをしていると、ある日、宮崎が生まれ育った兵庫県明石市の隣、加古川市にある兵庫大学から連絡があった。「データ活用を学ぶ新しい専攻をつくるので、そこの教授になってくれないか」というものだった。

コロナ禍のなか、毎日の在宅勤務での連続するウェブ会議に疲れを感じていた宮崎には、一気に晴れ間が広がるような打診だった。その前には神戸市からも、非常勤でいいので来てほしいと相談を受けていた。

ところが、副業を推進するヤフーであっても、平日の勤務時間に副業を認める規定はなかったので、神戸市で働く話は進んでいなかった。兵庫大学は地元貢献を大事にしていたので、宮崎が地元自治体で副業的に働くことも歓迎していた。

さらに言えば、兵庫大学の教授就任を打診したのは、最初のシリコンバレー派遣で同行した同大学の教員だったという。宮崎は次のように結ぶ。

「教育に携わるきっかけは、間違いなく神戸市のシリコンバレー派遣事業でした。大学生のような吸収力のある若者に、いろんな経験をさせると、人生が変わります。教育こそが私の経験が活かせる仕事だと思いました」

こうして宮崎は、自身の経験とやりがいを組み合わせた新たなステージに挑むことにしたのだ。神戸市の職員として、彼の活躍を間近で目撃できると思うと、楽しみでならない。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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