家族だけでなく地域で支える、「認知症神戸モデル」制度の効用

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厚生労働省によると、2025年には認知症の患者は約700万人に達し、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると予想されている。国民の誰もが罹る可能性があるともいえるが、周りに言いづらい雰囲気もあり、家族だけで問題を抱えがちだ。

特に家族を悩ませるのは、認知症が進行した患者が、マンションで水道を出しっぱなしにして下の階まで水浸しにしてしまったり、介護施設で乱暴してスタッフにけがをさせてしまったりした場合だ。

民法では、責任能力のない者が事故を起こしても、本人には賠償責任は生じない。だが、未成年者であれば、親権者に当たる法律上で管理監督すべき者が、それを怠っていれば責任を負うとされている。

2007年に愛知県のJR共和駅で線路内へ立ち入った認知症患者が列車にはねられ死亡した事故で、JR東海は家族に対して振替輸送などに掛かった720万円の損害賠償を求めた。

ところが2016年の最高裁判決では、家族は同居していないなど監督できない状況であったとして賠償責任を認めなかった。さらに、家族が管理監督できていて加害防止ができるのであれば賠償責任があることも示した。逆に言うと、管理監督する者がいなければ、被害者は救済されないという課題もあらためて明らかになった。

地域を巻き込んだ認知症対策


このような問題を何とかできないかと、神戸市は2019年から「認知症神戸モデル」と呼ばれる、認知症の早期診断を促すとともに、認知症の方が事故を起こしたときに被害者などを救済する制度をスタートさせた。

2016年に神戸で開催された先進7カ国が参加するG7保健大臣会合で、高齢者や認知症患者に優しい地域づくりを推進する「神戸宣言」が採択された。2040年のピークに向けて高齢者人口が増え続ける神戸市は、これをきっかけに、家族に負担を押し付けるのでなく、自治体レベルの地域を巻き込んだ形での認知症の対策が必要であると考えたのだ。

認知症神戸モデルでは、65歳以上の市民全員が二段階方式の認知症診断を無料で受けることができる。当初の予測を上回る4万人以上がすでに受診した。これは神戸市の65歳以上の人口の約1割に達している。

この診断で認知症と判断されると、その患者を被保険者として神戸市が賠償責任保険に加入する。もちろん保険料は神戸市が負担する。

この保険では、第三者への賠償責任のための保険金(最大2億円、自動車事故を除く)と、交通事故などで認知症患者本人が死亡したときや後遺障害を負ったときの保険金(最大100万円)が支払われる。

さらに、賠償責任保険とは別に見舞金(最大3000万円)が被害を受けた市民に支払われる。事故が発生すると、先に見舞金が支払われ、賠償責任が認められれば損害賠償の保険金が追加される(見舞金相当額は控除)。

このように「認知症神戸モデル」は被害者への救済が充実しているのが特徴だ。これまでに保険金では9件、見舞金では6件の実績がある。
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文=多名部重則

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