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2021.12.14

住人25人の村に電気自動車をレンタル。ルノーが仕掛けた社会実験

Electric Village - Appy | Groupe Renaultの動画より

脱炭素(カーボン・ニュートラル)社会の実現が全世界的に求められ、それに伴いクルマのEV(電気自動車)化も叫ばれている。自動車業界は、従来から10億ユーロ(約1270億円)もの資金を投じて電気自動車を開発してきたが、2020年には購入意向のある人はわずか7%にとどまり、残り93%は二の足を踏んでいる状態だという。

筆者自身ももう何年もハイブリッド車に乗っているが、電気自動車にしようとは思っていない。その理由を考えてみると、価格が割高であること、加速や走行可能距離、充電利便性などの使い勝手に疑問があるという点に行き着く。

地球環境にはベターだと頭でわかってはいるが、自分にとって果たして「得」になるかという部分で消極的になってしまうわけだ。

人口25人の村に11台の電気自動車を貸与


フランスの自動車メーカー、ルノーによれば、さらに「(電気自動車のような)そういった進んだことは、大都市居住者に任せておけばいい」といった考え方が、地方では根強いという。

そこでルノーが展開したのが、「Village Electrique(電気の村)」という企画だ。世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つカンヌライオンズ2020~2021のアウトドア部門でグランプリを受賞した。

この企画でルノーが何を行ったのかといえば、住人が25人で、使用しているクルマが11台しかないアピー(Appy)という村を選んで、そこに自社の電気自動車「ZOE(ゾエ)」を持ち込み、3年間無償で貸与することにしたのだ。

アピー村は、フランス南部のピレネー山脈に程近い最も人里離れた村。最寄りのパン屋まで20キロ、スーパーマーケットまで30キロ、学校までは35キロ、直近の都会までは120キロあるという。クルマは村の人たちの生活には欠かせない。

そのアピー村の11台のクルマをすべて電気自動車に変えて、村の生活は何が変わったのか。実は、半年経っても何も変わらなかったという。ある人は毎朝クルマで働きに出かけ、ある人はスーパーマーケットに買い物へ、また別の人は子供たちを学校まで送り迎えをした。


Electric Village - Appy | Groupe Renaultの動画より

つまり、電気自動車は使い勝手が悪いのではないかという懸念は、見事に払拭されたことになる。

ルノーはこの半年の様子を現地で取材して、15分ほどのドキュメンタリー映像を制作、テレビで放映して、ウェブでも配信した。映像では、村人の生活に不便は生じなかった一方で、2600リットルのガスを減らし、4トンものCO2を削減することに成功したと訴えた。

山あいにある人里離れた村で乗られる電気自動車ZOEの映像は、このクルマが自然環境保全に寄与するであろうことも、強く想起させるものとなった。結果的に映像は6300万回も視聴され、延べ1億5000万円分以上に相当するメディア露出を手にし、売上げも50%アップして、ZOEはヨーロッパでもっとも売れている電気自動車となった。
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文=佐藤達郎

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