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2021.12.22

南米発デジタル銀行「ヌーバンク」が創業8年で顧客数世界一になれた秘密

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高齢者もスマホでバンキング


わずか1年後には、100万人以上がヌーバンクのクレジットカードの順番待ちリストに登録。ヌーバンクは損失を避けるため、申込者の20%しか承認せず、一部の利用者には14ドルという極めて低い利用限度額を設定し、期限通りに支払いが行われた場合にのみ、それを増額した。さらに、申込者本人の信用履歴だけでなく、紹介者の履歴も照会するなどの厳格な審査を実施した。

16年には、ヌーバンクが承認したクレジットカード利用者の数は100万人に達した。そのほぼすべてが、口コミと紹介を通じて獲得した利用者だった。17年5月になると、ヌーバンクは外国資本による銀行の所有を禁じる規定の対象外となり、ブラジルの銀行免許を取得。これにより、当座預金口座と貯蓄口座をデジタルで提供できるようになった。既存の銀行が一口座につき最大で月額10ドルの手数料を徴収していたのに対し、ヌーバンクの口座は手数料がほぼ無料だった。その後の5カ月間で、ヌーバンクのクレジットカード利用者400万人のうち、150万人が銀行口座を開設している。

その後、ヌーバンクは急成長を続けている。19年の収益は5億2300万ドルで、損失は7800万ドル。翌年春に新型コロナウイルスのパンデミックが発生すると、成長速度は加速した。ブラジルでは高齢者でさえモバイル銀行を利用するようになり、20年の益は前年の2倍近い9億6300万ドルに膨らみ、損失は4400万ドルにまで縮小した。

ブラジルではヌーバンクを模倣したデジタル銀行がいくつも登場し、伝統的な銀行もテクノロジーに重点的な投資を行っている。一方でヌーバンクは昨年、デジタル投資プラットフォームを買収。また生命保険商品も売り出し、最初の2カ月で10万件の保険契約を獲得している。

ヌーバンクは19年にはアルゼンチンとメキシコに、昨年はベレスの母国コロンビアに進出している。ベレスは米国に進出する気はないものの、ヌーバンクの上場を“マーケティング目的”で、米国で実施することを検討中だ。だが、急ぐつもりはない。サッカーの試合で言えば、ヌーバンクはまだ「前半開始1分」にいるのだ。そう言うと、彼は笑った。

「ラテンアメリカでは、何事においてもサッカーのたとえを使うのが習わしですから」


Nubank ヌーバンク◎ブラジルのサンパウロに本社を置くネオバンク(デジタル銀行)。共同創業者はダビド・ベレスほか。クレジットカード事業を皮切りに、融資や生命保険なども展開。無料の年会費と低額の手数料が人気で、国内で4000万人の顧客を抱える(21年7月)。紫色のクレジットカード(下)と使い勝手のいいアプリも人気。

David Velez ダビド・ベレス◎デジタル銀行「Nubank(ヌーバンク)」共同創業者兼CEO。1981年、コロンビア生まれ。米スタンフォード大学卒業後、モルガン・スタンレー、セコイア・キャピタルなどに勤務。2013年、ブラジルでヌーバンクを創業。保有株式23%の評価額は52億ドルに及ぶ。趣味はフィクションを読むことで、好きな小説はガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』だという。

Edward Wible エドワード・ワイブル◎プリンストン大学でコンピュータ科学を専攻した米国人のワイブル。3人目の共同創業者としてヌーバンクに加わった。サンパウロに一軒家を借りて同社を立ち上げた当初、ワイブルはその2階で暮らしていたという。

Cristina Junqueria クリスティーナ・ジュンケリア◎銀行大手イタウのクレジットカード部門でトップを務めたブラジル人エンジニアのジュンケイラ。2人目の創業者としてヌーバンク立ち上げに参画した。米ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院でMBAを取得している。

文=ジェフ・カウフリン/マリア・アブルー/アントワーヌ・ガラ 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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