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2021.12.22 09:00

南米発デジタル銀行「ヌーバンク」が創業8年で顧客数世界一になれた秘密

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巨大で天下無敵―。ブラジル国民は、銀行への期待をなくしていた。そんなとき、異邦人が作ったデジタル銀行が“救世主”のように現れた。


2012年の夏、米スタンフォード大学でMBA(経営学修士)を取得したばかりのダビド・ベレス(39)は、米ベンチャー投資会社「セコイア・キャピタル」の社員としてブラジルの首都、サンパウロに乗り込んだ。彼に与えられた使命は、投資先のスタートアップを開拓することだった。

しかし10月上旬、ベレスは悪い知らせを受け取る。ブラジルからの撤退が決まったのだ。人口2億人の同国は当時、世界7位の経済大国に浮上していた。しかし鉱物資源が豊富なこの国では伝統的な大手企業が幅を利かせ、セコイアが投資対象とするようなスタートアップが少なかったのだ。

「誕生日の前日で、かなりショックでしたね」と、ベレスは振り返る。それでも起業願望があったベレスは、そのイノベーターが足りていない状況に好機を見出した。

「自分のような人材が足りない市場のほうに身を置くべきなのです」と、ベレスは説明する。

「米国では優れた起業家の供給過剰が起きています。私のような経験や経歴をもつ人間はコモディティ化(一般化)しているのです。ですがラテンアメリカでは、そういった人材が不足しています」

ほどなくして、ベレスは自分の獲物を見つけた。「銀行」である。ブラジル人に言わせれば、巨大で天下無敵の存在だ。だがベレスからすれば、悪名高き高額な手数料を取り、サービスは最低で、新しいテクノロジーに無頓着な銀行は格好のカモだった。そこで、既得権益にあぐらをかいている大手銀行を転覆することを思い立ったのだ。ベレスが創業したデジタル銀行「Nubank(ヌーバンク)」は、創業10年未満ながら4000万人の顧客を抱え、評価額は250億ドルに達している。

「ブラジルで起きていることは、真の革命にほかなりません。長年ふんぞり返ってきた銀行の目を覚まさせたのですから」と、ヌーバンクの投資家でキャピタル・ワン共同創業者のナイジェル・モリスは語る。ベレスが、起業を現地の友人に打ち明けたとき、「大手銀行に妨害されて殺されるか、子どもを誘拐されるからやめたほうがいい」と警告された。ところが、彼はそれを見事にやってのけた。

1981年にコロンビアの実業家一族のもとに生まれたベレスは、故郷のメデジンの街が麻薬戦争によって荒廃していく様を目の当たりにした。家族とショッピングセンターを出た数分後に、そこが爆破された経験もしている。伯父が誘拐され、救出された後、9歳のベレスは家族とコスタリカに移り住んだ。

ドイツ語で教育を行う地元の私立校を経てスタンフォード大学に進んだ彼は、シリコンバレーの起業ブームに自分も参戦したいと切望した。だが当時の彼は「ビッグなアイデア」を思いつくことができず、卒業後は投資銀行モルガン・スタンレーに就職した。その後、別の投資会社での勤務を経てスタンフォード大学に戻り、MBAを取得する過程でセコイアの創業者ダグラス・レオーネに出会った。ベレスは、既得権益で巨額をもうけ、現状に甘んじて慢心している既存企業を起業家たちがテクノロジーで圧倒し、大きな成功を手にできることを学んだという。
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文=ジェフ・カウフリン/マリア・アブルー/アントワーヌ・ガラ 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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