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2021.12.22

南米発デジタル銀行「ヌーバンク」が創業8年で顧客数世界一になれた秘密

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「ブラジルで最大の産業は? 銀行です。最ももうかるのは? それも銀行です」と、彼は語る。当時、ブラジルではイタウやサンタンデールなどの5大銀行が、銀行市場の80%を牛耳っており、高い貸出金利と法外な手数料を取るかたわら、お粗末なサービスを提供し、暴利をむさぼっていた。

「ブラジルの銀行はクソだ。これまでもずっとそうだったし、これからもそうだ」と、あるブラジル人の友人に言われたとベレスは回想する。しかし10年代初頭になると、彼はインターネットとスマートホンが、この広大な国の全土に急速に広まっていくのを見た。

「銀行のような産業を根本から作り変えるという、とてつもないチャンスはいくつもありました。なのに、誰も真剣に考えてはいませんでした。誰もそんなことが可能だとは思っていなかったからです」と、ベレスは語り、こう付け加える。

「ブラジル人では、絶対にヌーバンクを立ち上げることはできなかったでしょう。アリがゾウに戦いを挑み、勝利する様を見てきたシリコンバレーの投資家が必要だったのです。ラテンアメリカの投資家がそのような事業を目にしたら、『無理に決まっている。踏みつぶされるのがオチだ』と言うでしょうから」

そこで、ベレスは現地の銀行業界の関係者たちに話を聞き、米国や欧州の新興のデジタル銀行を研究し、構想を練った。最初はクレジットカード事業から始め、次第に他の金融サービスに手を広げ、銀行より安い手数料で顧客にアピールしようと考えた。彼はその後、前出のレオーネや他の投資家から200万ドルを調達。銀行業の経験をもつ共同創業者を加えるべきだと助言された彼は、イタウのクレジットカード部門を辞めたばかりのエンジニア、クリスティーナ・ジュンケリアを会社に誘った。さらに、プリンストン大学でコンピュータ科学を専攻したエドワード・ワイブルを引き入れ、3人でサンパウロに一軒家を借りて開業した。

その翌月、クレジットカード事業を立ち上げた。ブラジルの憲法には外国資本による銀行の所有を禁じる条項があるが、クレジットカードの提供には銀行免許は不要だからだ。立ち上げに当たっては、シリコンバレーでおなじみの「ベルベットロープ」戦略を用いることにした。つまり、最初のうちは友人の招待がなければカードを申し込めないつくりにしたのだ。もっとも、この特別感を別にしてもヌーバンクの魅力は明白だった。年会費は無料で、手続きはすべてアプリ上で完了し、早ければ2日後には紫色の洒落たカードが手元に届く。

翻ってブラジルの銀行の大半は、ごく基本的なクレジットカードであっても年会費を徴収し、その額は低くても20ドルだった。そのうえ、不正利用の防止・損害賠償からショートメッセージによる通知まで、さまざまなサービスで月額利用料を取っていたのだ。JPモルガンの分析によると、19年にはこうした年会費や月額料金がブラジルの銀行の収益の40%近くを占めていた。ブラジルの大手銀行はいまも高額な年会費・手数料のままだが、ヌーバンクの台頭に大きなプレッシャーを感じている。
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文=ジェフ・カウフリン/マリア・アブルー/アントワーヌ・ガラ 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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