ただし、この最新サービスを見て私が思い出したことがある。ブランド管理の心得を説いたスティーブ・ジョブズの名言で、筆者が自著で引用した言葉でもある。アップルが高いブランド価値を維持している秘訣について、ジョブズはこう述べている。「『何をやらずにおくべきか』を決めることは、『何をすべきか』を決めるのと同じくらい重要だ」
質の高いカーディオ・エクササイズで築いた評判を基盤に、事業を拡大しようとするペロトンの戦略には文句のつけようがない。とはいえ、シャドーボクシング・プログラムに関する説明を読んでいて、私は少し冷めた気分になり、このメニューを加えるという決断を、スティーブ・ジョブズならどう捉えただろうと思いをはせた。
これは、ペロトンという企業の全体的なブランド価値を押し上げるものだろうか? あるいは、アリバイ作りや人目を引くだけためのアピールという印象を残すものだろうか?
どうやら、ペロトンは岐路に立っているようだ。今後は、ポストコロナの「ニューノーマル」という荒波のなかで、どう進んでいくのか、難しい舵取りを迫られる。今は、何とかユーザーをつなぎ止め、同時に成長を維持するために、さまざまな戦術を繰り出すというやり方が魅力的に見えているのかもしれない。今回のメニュー追加が会心の一撃となるか、あるいは弱々しいパンチで終わるのか、今後の行方を見守りたい。