あまりに大きなマーケットであるがゆえ、誰も踏み入れなかった小売のDXにメスを入れたのが、2015年に創業した「FEZ(フェズ)」だ。
同社は、小売とメーカーのマーケティングや販促のサポート、客の購買と店頭データ(メーカーが要望する売り場施策の店頭実現率など)をもとにした売り場改善支援を行う「Urumo(ウルモ)」を提供し、小売のデジタルシフトを推し進めている。
ウルモは店舗が持つ会員IDを活用し、店が配信する広告の閲覧状況や、来店日、商品の購買データなどを見える化できるシステムだ。店舗はデータをもとに商品の陳列を変えるなど販促改善につなげることができる。
メーカーからの案件を受け、オンラインでの広告配信と連動させ、商品を店頭のプロモーションスペースに陳列する「店頭連動型広告」も展開している。
フェズはまず、ドラッグストア領域に切り込み、主要企業との提携を進めてきた。今年11月時点で、約8800店舗(店頭連動型広告の連携店舗)、連携IDは約9470万に上る。複数企業のIDを持つ顧客もいるため、消費者の実数はこれを下回るが、小売業界のデータ保有数としては国内最大級だ。
10月には、ニッセイ・キャピタル、インキュベイトファンドUS、SHIFT、MTG Ventures、フォースタートアップスキャピタルと金融機関からシリーズCとして11.5億円の資金調達を発表した。
創業者の伊丹順平は、「小売業界のDXは、我々の動きで早くも遅くもなる。責任ある企業になったと考え、事業を進めています」と自信を見せる。
しかし、これほど大きなマーケットをゼロから開拓する道のりは、泥臭い。伊丹はDXの重要性をどのように訴え、いかにしてツール導入を進めてきたのか。
社長へ説いた「仮説」
伊丹は、新卒でP&Gに入社。営業として小売事業者を回った。その後グーグルに転職し、同業界の広告営業を担当。メーカー側とデジタル広告側、2者の立場を経験するなかで、小売のDX(リテールテック)で売り上げ向上ができると確信し、起業した。
伊丹はまず、小売企業の社長へ営業をかけ、データによって売り上げが変わるという仮説を説いた。
「『広告、販促、店頭が連動することで売り上げが最大化される』と伝えました。従来のやり方は、テレビ広告を打ち、販促チラシを巻く。店頭では、ラウンダー(メーカーの営業担当者の代わりに店舗に行き、商品説明と補充する人)に指示を流すのですが、想定通り売り場を作れているかわからない。これじゃ検証のしようがないわけです。
撮影=藤井さおり
『ウェブ広告を流し、お買い得商品があればアプリでプッシュ通知し、売り場はデータをもとに商品陳列を変える。改善を加えた棚とそうでない棚で差があるかを可視化すれば、売れる売り場が分かる。だからPOSデータをください』と」
協力して実証実験を行う契約を取り付けると、伊丹は現場に出向いた。どの業務にどれだけの時間がかかっているのか、自ら1週間店舗に入り現場の業務フローや課題をインプットし、時には現副社長である赤尾雄司とともに売り場作りに取り組んだ。
売り場の検証を繰り返しデータ化。少しずつ売り場の成功事例を積み重ねていった。