1兆円市場、1000億円IPO増加、M&A増加へ
━━ One Capital代表取締役CEO 浅田慎二2021年、スタートアップによる資金調達総額は6000億円~7000億円の着地が見込まれている。少なくとも5年以内には1兆円の大台に到達するだろう。そんな環境下で、SaaSスタートアップ業界で起きることは、未上場段階でARR(年間経常収益)50億円を稼ぐ企業が次々と出てくることだ。
現在、SmartHR、アンドパッド、アタマプラス、キャディといった企業に代表されるように、50億円以上の大型調達の多くがSaaS企業である。純粋なSaaS企業に加えて、法人向けソフトウェア企業も含めた、こうした企業たちが、調達した資金を採用、マーケティング、製品開発に用いて、正しく成長すれば、ARR50億円には間違いなく到達するだろう。
21年に上場した、クラウド監視カメラシステムのセーフィーが、ARR50億円で、一時、時価総額2000億円近くになっていたことから、SaaSスタートアップのなかに「ARR50億円を未上場で目指す」という機運が生まれ、1000億円超えのIPO(新規株式公開)がさらに増えてくるだろう。
また、上場しているメガベンチャー、SaaSベンチャーによる未上場企業のM&A(合併・買収)が加速していくだろう。(20年9月に)freeeの社外取締役に就任してから、付加価値提供として取り組んだのが、買収専門チームをつくることだった。前職の米セールスフォース・ドットコム時代にコーポレートデベロップメント部門に在籍していたので、「投資・買収・PMI(買収後の統合作業)の3つの機能を有した日本企業版をつくりましょう」と、freeeのほかスマレジでもコーポレートデベロップメントチームづくりを実行中だ。
(編集部注※直近では、スマレジが12月8日、大和ハウス工業子会社のロイヤルゲートを買収すると発表した。金額は非公開)
freee、マネーフォワードは21年、300億円以上の資金を市場から調達し、資金使途にM&Aと記載しているため、数十億円単位の小規模買収を繰り返しながら、将来的には大型買収も視野に入れているのではないか。また、21年の象徴的な出来事のひとつである、米ペイパルによるPaidyの3000億円買収、米グーグルによるpringの推定200億円買収といった「ゲームチェンジ」もきっかけとなり、VCから見えていた、イグジット割合の99%がIPO、1%がM&Aという数字が、50%50%になってくるかもしれない。
1兆円市場、1000億円上場の増加、M&A増加となると、今後は、日本のVCをはじめ、スタートアップ・エコシステムに国内外の資金が流れ込み、資金調達金額1000億円から2000億円、5000億円が目指す道となる。スタートアップ・エコシステムがより「メジャーシーン」になっていくだろう。もちろん倒産や大型損失といった「悪いイグジット」も出てくるため、越えるべきハードルもあるには違いない。
また、聞こえがいい「グローバル展開」については、向き不向きで棲み分けている。前述の大型調達している4社も、国内市場の割合が多い。また、我々にLP投資している海外機関投資家も「GDP3位の市場なのだから、頑張ってグローバルと言わなくていい。既存産業に数多くいるプレイヤーを根こそぎ倒してほしい」と言っているが、その通りだ。
国内の商習慣に根差している業務系は、ドキュサインやワークデーなど海外勢が参入できない領域があるため、国内市場を取り切るがいい。とはいえ、投資先でエマージングな成長している、オンライン上でバーチャルオフィスを提供するoVice(オヴィス)のようなコラボレーション系は早めにグローバルに展開したほうがいい。コラボレーション系は「Go Global」それ以外は「Go Local」と考えている。(談)
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本連載は、発売中のForbes JAPAN2022年1月号の特集「起業家ランキング2022」と連動した企画です。今後、著名投資家へのインタビューを連載形式で随時公開を予定しています。
【連載】スタートアップ・トレンド
vol.1 2021年、「ギアチェンジ」した日本のスタートアップの進化
vol.2 2022年、スタートアップ資金調達額「1兆円」時代の到来か
vol.3 「CVC新元年」だった2021年。さらなる拡大・飛躍へ向かう
vol.4 2022年、スタートアップ「スーパー・ブリッツスケーリング」競争時代へ