ビジネス

2021.12.14

ディープテックスタートアップが世界で勝つために、なぜ大局観が必要か

Nadezda Murmakova / Shutterstock.com


ドイツ自動車業界をはじめとするEUでは1980年代からデジタル化を促進し、分散生産を行う過程でデジタルシミュレーション技術が発達。その後も、マーケティング・製品開発・製造・サプライヤ管理のデジタルツイン化(物理空間から取得した情報をデジタル空間にコピーを再現する技術)を急速に進めてきた。

近年は消費者のニーズの変化により、開発費用の4割をデジタル・コネクティビティにシフト。マーケティングとUI、自動運転等への対応が求められ、ハード・ソフトの一体化の難易度がアップしたが、そのシミュレーションにもデジタルツイン環境を作り対応している。

デジタルツインのイメージ
Alexander Tolstykh / Shutterstock.com

EV化にともなって誤作動等に関する試験項目も膨大となっており、プロダクトサイクルを早めるためにも開発プロセスの現物主義からの乖離が進んでいる。すでに欧州は、政府主導で全主要道路のデジタルシミュレーション環境を整備。耐久試験やハンドリング、開発コストが異常にかかる各国の法規適合とデザインの融合、衝突試験も基本は「シミュレーション」で行なえるようになった。

このような流れから、サプライヤにもデジタル対応を求めており、見積依頼書では最終製品の品質要求だけでなく、プロセス品質の開示も求められる。また、環境対応の意識も高まっており、LCA(Life Cycle Assessment:商品の開発、提供から廃棄・リサイクルまでの環境負荷評価)によるCo2排出量の算定も必要となるが、こうした事を示すためには、工場のIoT化やデジタルツイン環境の整備が必要なのである。このような外部環境の変化から対応が必須であり、対応できなければ仕事を受注できなくなるだろう。

産業構造の変化からも同様のことが言える。基礎技術開発に莫大な資金がかかること、消費者のニーズがグローバルで同質化していることもありメーカーは減少、車種も絞って作りこまれた車を作るバーティカルインテグレーション戦略(垂直統合)に移行。もはや部品を使い分けていくのはナンセンスであり、共通規格を元に大量に開発・購買していくことになるだろう。複数銘柄のOEMと付き合う事になると、仕向け地(輸出国または注文元)での仕様や認証を満たしながら早く市場への投入が求められるが、このプロセスにおいてもデジタルツインは必須であり、対応できるプレーヤーしか生き残れない。

しかし、日本の二次下請け企業でこれに対応可能な企業は少ない。仮に上記に対応したとしても、思い切った対応とは見なされず、世界的に見ればあくまで段階的に必要な変化をしているだけだと捉えられるだろう。

現状、後追いでデファクトスタンダード(事実上の標準)を取られてしまったため、シミュレーションツールなども欧州・北米勢のシステムを使わざるをえない。

鍵となるのはデジタルツインによる徹底的な効率化やシミュレーション技術による新商品開発だ。それにより、サステナビリティを実現した物作りをしつつ競争力の高い事業を作るために必要なのが、高度なシミュレーションを速く可能にする量子コンピュータ、アルゴリズム、またその下でツールとして使えるマテリアルズインフォマティクスやデジタルツイン最適化技術、こうしたものを落とし込むロボティクスなどディープテック企業が非常に重要になってくる。ここまでの流れから、新技術は単に効率化や人手不足を補うためのものではなく、会社の生き残りにも関わる重要なものであると認識できるだろう。
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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