ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか


さらには、ビジネスの話でも金継ぎの哲学が持ち込まれ始めている。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙や経済誌のエコノミスト誌などは金継ぎに関する記事を繰り返し掲載している。さらにはフォーブス誌は、財務計画書について金継ぎの哲学から考察する記事を掲載するなど、ビジネスの場でも金継ぎの哲学は着実に浸透の気配を感じさせる。

金ツギ

3つ目は、欧州やアメリカを中心に、サステナビリティとサーキュラーエコノミーを推し進めるための取り組みが強く推奨されていることだ。

今、世界各国が目指すサーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。金継ぎは、一度は壊れてしまった製品をただ巻き戻して壊れていない状態にするだけではなく、美しいアートを施し、歴史というストーリーとともに芸術的価値をともなった製品に仕立て上げるのだ。

また、製品にいくら修繕を施し、物理的に長く使えるようになったとしても、使い手が興味を失って捨ててしまっては意味がない。金継ぎは、製品の物理的耐久性だけでなく、情緒的耐久性を上げるためのひとつの手段ともなる。

サーキュラーエコノミーのためのプロダクトデザインの専門家で、『Emotionally Durable Design』(2005年・2015年)の著者ジョナサン・チャップマン氏によると、製品に対する情緒的耐久性を高めるためにはストーリー、趣き(経年が個性となること)、愛着などを生み出すことが効果的な戦略だとしており、金継ぎはこれらを製品に与えてくれるのだ。

これは、世界各国が目指す持続可能な、循環する社会経済において、金継ぎは非常に大きなポテンシャルを秘めていることを意味する。

茶碗

このように世界では心のウェルビーイングのため、多様性の象徴として、ビジネスの指針として、環境への意識の高まりから、様々な形でキンツギが広がっており、この潮流は更に大きくなるとみられる。日本企業にとっても身近なようで意外に知らない金継ぎの哲学を今改めて学び、ビジネスに活かすことで拓ける可能性があるのではないだろうか。


この記事は、2021年10月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。
(※上記の記事は、ミテモ株式会社が運営する世界視点で課題を掘り下げるウェブメディア「Deeper」の「なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか」より転載された記事です)

連載:国内外のサーキュラーエコノミー最新動向
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文=西崎 こずえ

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