ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか


英語圏では金継ぎの哲学を紹介する本も相次いで執筆・出版されている。2018年には日本のバックグラウンドを持つアメリカ人料理家Candice Kumai氏による著書「キンツギ・ウェルネス:心・体・魂を慈しむ日本芸術(原文英語タイトル:Kintsugi Wellness: The Japanese Art of Nourishing Mind, Body, and Spirit)」が発売されるとForbeやNBCニュースなどにも取り上げられ話題となった。2019年1月に発売された「金継ぎ:不完全さの中に強さを見出す(原文英語タイトル:Kintsugi: Finding Strength in Imperfection)」はより良い世界を形作る本に送られるNautilus Book Awardの金賞を受賞している。

2020年には玩具メーカーLEGO社がグローバルマーケティングキャンペーン「Rebuild the World」の中で、金継ぎをテーマにした「レゴツギ」キャンペーンを展開。壊れたものを直す楽しさと創造性を、金継ぎの考え方とともに世界に向けて発信した。

レゴ
LEGO公式Youtubeチャンネルより

これほどまでに金継ぎの哲学が求められ、広がりを見せるのにはいくつかの理由が挙げられる。

1つ目は、飾らず、欠点も受け入れて見せていくことを賛同する潮流だ。人と違うことを欠点として隠すのではなく、自分らしさとして大切にできるようになるまでの主人公のストーリーを描いたディズニー映画「アナと雪の女王」は2013年に公開されると、世界中で熱狂的なブームを巻き起こした。2016年頃からはそばかすなどを隠さずにノーメイクで自信を持つ姿勢を支持する声が高まり、ボディ・ポジティブムーブメントからのプラスサイズモデルの台頭、白髪を染めないでそのままのシルバーヘアとして楽しむことなどといった、欠点も含めて自分であり、完璧ではない自分を受け入れて自信を持つことこそ美しいといった考え方が圧倒的に支持を集めていること。

きんつぎ
イギリス版「Vogue」副編集長サラ・ハリスの美しいグレイヘア/@sarahharris

2つ目は、マインドフルネス、瞑想などの加速。特にコロナ禍で人との交流が絶たれ、オンラインに切り替わり、ウェルビーイングを保つことが難しくなったことも要因のひとつにあるだろう。こういった中で、近年欧米で重要視されていたマインドフルネス、瞑想などといった心のウェルビーイングを保つための嗜みを求める傾向が加速した。

キンツギ

大切な人を失くす、病気になる、といった人生の大きな悲しい出来事を受け入れ、乗り越えるためのセラピーとしてのキンツギに関するニュースや文献は数多く見受けられる。例えば、今年4月にはガーディアン誌が、幼い頃亡くした親しかった兄の死を、金継ぎを行うことで理解し、受け入れていった女性へのインタビュー記事を掲載している。
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文=西崎 こずえ

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