ビジネス

2021.12.01 11:00

「ダラー・ツリー」の値上げの理由、その背景と実情


というわけで、ダラー・ツリーの値上げについては、1ドルショップの消費者たちが、必ずしも価格の上限を気にしながら買い物をしているわけではないことを念頭に置きながら考える必要がある。はるか昔の小売業界を記憶している人たちは、20世紀の初頭から半ばにかけて存在していた「ファイブ・アンド・ダイム」という、5セントや10セントで買い物ができた伝説の格安雑貨店を思い出してほしい。ウールワース(Woolworths)やW.T.グラント(W.T. Grant)、クレスギ(Kresge)、マックローリー・ストアズ(McCrory Stores)はどれも、そうした格安価格帯の商品の販売からスタートし、徐々に価格と品揃えの幅を大きく広げていった。

それらのチェーンは、ほとんどが1970年代と1980年代に倒産した。例外はクレスギで、Kマートへと姿を変えて、現在も存続している。小売業界を専門とする歴史家の多くは、それらの格安小売店が消滅した原因として、全米規模で展開する大型小売店ウォルマートやターゲット、そしてKマートなどの台頭を挙げている。しかし実際には、大型ドラッグストアのCVSヘルスやウォルグリーンズ、ライト・エイドなどが台頭したことにも、同じくらいか、より大きな要因があるかもしれない。皮肉な話だが、小売業界では、1ドルショップ自体が、ファイブ・アンド・ダイム型の雑貨店の駆逐を助けたのだ。

というわけで、価格体系を変更する小売企業は、ダラー・ツリーが初めてというわけではない。ダラー・ツリーは認めないかもしれないが、同社にしてみれば、価格改定は長年にわたって検討してきたことであり、現在の情勢に押されるかたちで、ついに実現したことなのだ。

現在の経済情勢の厳しさは誰もが認めていることなので、消費者はきっと、このたびの値上げを冷静に受け止めるだろう。繰り返すが、ダラー・ツリーは、生活するうえでさほど必要のない商品を衝動買いする店であって、貧困すれすれで暮らしている人たちが必需品を買いに行く場所ではない。

驚きとともに受け止められることがあるとすればそれは、ダラー・ツリーがビットコインによる支払いを受け入れるようになった時だろう。

編集=遠藤康子/ガリレオ

ForbesBrandVoice

人気記事