ただし、1ドルで商品が買える時代は終わったと大騒ぎする前に、歴史を振り返ってみよう。明確な価格体系を特徴としていた小売チェーンが戦略変更を余儀なくされたことは、今回が初めてではない。これについては後ほど詳しく説明していこう。
ダラー・ツリーは、その名を冠した店舗が全米7800カ所以上に存在する(さらに、傘下の1ドルショップ「ファミリー・ダラー」は8000カ所ほどの店舗網を持つ)。そのダラー・ツリーが発表したこのたびの値上げは、冒頭で挙げた要素すべてから影響を受けた結果のように見える。背景には現在の経済情勢と小売業界を取り巻く状況があり、免れることは不可能のように思える。
ただしダラー・ツリー側は、そうした要素に直接の責任を押し付けないよう細心の注意を払っている。同社は今回の値上げについて、「短期的あるいは一時的な市場状況への対応ではない」と述べている。それどころか、値上げすることで品揃えの選択肢が増え、現在の価格体系では提供できなくなっていた「人気商品」の復活も可能になる、と主張している。
同社のマイケル・ウィティンスキー最高経営責任者(CEO)は、声明でこう述べた。「いまこそは、1ドルという価格の縛りから抜け出す絶好の機会だ」
実際、ダラー・ツリーはかねてから、1ドルを超える価格帯の商品を実験的に取り揃えてきた。店舗によっては、5ドルの商品も売られている。もっと言えば、傘下のファミリー・ダラーや、その競合他社ダラー・ジェネラルとの差異もある。ダラー・ツリーは主に、郊外に住む中流層をターゲットにしており、そうした消費者層がほしがる目新しいグッズや季節商品、パーティーグッズなどを販売している。基本的な品揃えが日用品や必需品であるほかの1ドルショップチェーンとは違うのだ。
また、1ドルショップという名目は、以前から誤解のもとだった。ファミリー・ダラーとダラー・ジェネラルはともに、以前から、1ドルショップと名乗りつつも、1ドルを大きく上回る価格の商品を取り扱っている。生鮮食料品や洗剤、衣類など、ときに10ドルを超える商品もある。そうしたチェーンにとっての「1ドル」とは、実際の価格というよりは、価値を意味するものなのだ。