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2021.12.03

夫婦でビジョンを作る「共同創業婚」のススメ|イノベーターの妻たち

高木新平氏との出会いは、2014年の東京都知事選時、家入一真氏の選挙事務所でだった(連載「イノベーターの妻たち」 サムネイルデザイン=長谷川亮輔)


選挙の開票当日、いきなり彼から「選挙こんなに頑張ったのに最後にiPhoneを盗まれて踏んだり蹴ったりで打ち上げに行く気にもなれず、飲みに行って話聞いてほしいです」というメッセージが来たんです。

この突然の誘いから徐々に距離が縮まっていった感じです。

ですがこの頃の私は、すでにバツイチでちょうどひどい失恋をしたばかりだったし、傷つける人や私に用事がない人には関わりたくないと思っていた時期でした。だから、男性として本格的に意識する前に「結婚を考えていない相手とは、付き合えない」と正直に話しました。

そしたら彼も、まだ26歳でしたが、自分が35歳ぐらいになったとき、子育ての忙しい時期を終えて仕事に没頭できる環境を作りたいというイメージを話してくれて、自然とお互いに結婚への気持ちを育んでいきました。

NEWPEACE起業は「妻のひと言」から


私と出会ったとき、彼は博報堂を1年で退職したあとシェアハウスを立ち上げて全国各地をフラフラしていて、とにかくすごく自由でした。一方の私は、大手企業に勤めた後フリーになってある企業の新規事業立ち上げを手伝っていたので、結構忙しかったんです。

彼が具体的に何をやっているのか、気にはなっていましたが、「日本をもっと多様な価値観を認め合える社会にしたい」という想いについては聞いていたので、きっとそこに向かって動いているんだろうなあ、ぐらいに思っていました。

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でもそんなときに妊娠がわかって、彼から「就職するよ」と言われたんです。

そこからすぐに有名な企業の恵まれたポストのオファーをもらって、あとは彼が契約書にサインするだけ、という段になった。でもそこで私が、「本当にそれでいいのか?」と思ってしまったんです。

「妻としてはそれはうれしいけど、1人の人間、そして1つの人材としてあなたを見たときに、組織に勤めて誰かに報告しながら働くって、本当にそれって『面白い』選択なの?」と聞かずにはいられなかった。

それで「ダメになったら何かしらで食べていけるよ。だからチャレンジする方を選んだ方がいいんじゃないの」ってアドバイスしたんです。

それまでの彼を見てきて、新卒で入った大企業も一年でやめて独立独歩でやっている、そもそも人と同じような経験から満足を得られる人じゃない、本人もそれを早々に悟っているはず。なのに子どもができたからといって、いったん「自分流ではない」と退けた生き方に逆戻りするのは不自然じゃないか、と思ったんです。

結果、彼は内定を辞退させていただいて、今のNEWPEACEを起業したというわけです。

「誰かにすごく信頼されている」顔をしていた


「起業とかされて、失敗したらどうしよう」という心配は、とくになかったですね。まあ何とかなるだろうと思っていました。

なぜそれほど自信があったかと考えると、まず初対面で、家入さんの選挙事務所にいたときの顔。そのときはなんとも思わなかったですけど(笑)、後から考えるとあれは、人から信頼されている顔だったんですね。大勢の人から信頼されて働いている人の顔でした。

ならば、起業した場合でも、企業母体まるごと顧客から信頼されるというミッションにも十分にコミットできるんじゃないか。そんな直感があったんでしょうね。それに、「人と同じような経験からでは満足を得られない」タイプなだけに、ほかの人とはちょっと違う発想や、世界の見方ができる人だということを知っていたし、すでにそこからの成功体験も見ていました。
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文=石井節子 写真=曽川拓哉

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