現在は、さらに賞金を稼いだ馬がいる。オーストラリアの最強牝馬ウィンクスは、2014年から2019年まで長きにわたって活躍し、レース33連勝という偉大な記録を作った。ラストレースになったクイーンエリザベス・ステークスにも勝利し、アロゲートを抜き約1456万5000ポンドで世界歴代1位となった。
2018年10月27日、オーストラリア メルボルンのムーニーヴァレー競馬場で行われたコックスプレートで優勝したときのウィンクス。(Sam Tabone/Getty Images)
続いて、世界最高の種牡馬価格に注目してみよう。記録を長く持っていたのが、フサイチペガサスだ。この馬は、日本人馬主の関口房朗氏がアメリカで購入してアメリカで走らせた。当時の1歳馬の世界最高額の400万ドル(約5億6000万円)で購入されると、2000年のG1のケンタッキーダービーなどで勝利した。
父の大種牡馬ミスタープロスペクターが1999年に死亡していたので、後継種牡馬として競走馬生活を1年未満で引退し、種牡馬として6000~7000万ドル(70億円程度)でクールモアに売却された。これは種牡馬として当時最高価格で、現在も2012年に1億ポンド(1億6000万ドル、約127億円)で種牡馬シンジケートが組まれたフランケルに次ぐ金額である。
ちなみに3位が前述のディープインパクト(51億円)だ。現在は、日本人オーナーの馬が、世界の種牡馬価格のトップ3のうち2つを占めていることになる。
競走馬は、購入金額通りに走るとは限らない。しかし、成功した競走馬のオーナーは、多額な賞金とともに名誉を得る。だから、人々は馬に夢とロマンを感じるのだろう。
茜灯里◎東京大学理学部、同農学部獣医学専攻卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。馬術競技の元全日本チャンピオン。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在立命館大学教員。「第24回日本ミステリー文学大賞新人賞」をデビュー作『馬疫』(2021年2月、光文社刊)で受賞。宝石鑑定・鑑別士としては、英国宝石学協会認定試験(FGA)プロ部門1位を獲得。「Newsweek日本版」で科学コラムを連載。