ビジネス

2021.10.08 17:00

経験を活かせるのも45歳まで。「70歳定年法」は天下の愚策か?

Martin Barraud/Getty Images

Martin Barraud/Getty Images

今年の4月、企業に対して70歳までの就業機会確保を努力義務とする改正高齢者雇用安定法が施行された。これまでは65歳までの雇用義務だったが、4月1日以降は、70歳までの就業機会の確保が「努力義務」になった。現時点では「努力義務」に過ぎないが、大手企業にとっては義務化に近い内容といってよいだろう。これにより定年が延び、より長く働くことができる時代がやってきた。

そんな矢先、サントリー新浪社長が「45歳定年制」を提言、「会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べて話題になった。そして、今の「定年制度」に従っていれば、働くものが不幸になる、と指摘する人は新浪社長だけではない。

このたび上梓した『定年格差 70歳でも自分を活かせる人は何をやっているか』(2021年9月、青春出版社刊)が、発売後たちまち重版と好調の郡山史郎氏は、ソニー取締役、常務取締役、ソニーPCL社長、同社会長、そしてソニー顧問を歴任した、いわば会社員でありながら、経営のトップまで上り詰めた人物だ。郡山氏もまた、「定年」という概念のもつリスクを理解し、働き方を再定義する必要性があるという。

同氏によると、定年にはいくつかの種類がある。興味深いのは、国が定めて企業が従う一般的な定年退職制度である「形式定年」の他に、「自然定年」があるというのだ。

これは、企業や国や法律が、外から便宜上押し付けた定年制度ではない。動物である私たち人間は否応なしにも受け入れられるしかない、生物学上の定年だ。結論からいえば、それは45歳前後である。成長曲線を描いていた体力や気力が低下だけでなく、次第に知力、集中力、向上心も下降を始める。それが能力の低下に結びつき、それ以前に比べて明らかに仕事で劣ってくる。

それではビジネスマンが生涯、「幸せ」に過ごすためには何が必要なのか。まずは以下、郡山史郎氏からの、新浪社長の今回の発言についてのメッセージを紹介し、ついで、著書『定年格差』から抜粋してお届けしたい。

※郡山史郎氏からのメッセージ:「70歳定年法」は百害あって、一利なし


「新浪社長のお話は、現職のトップ企業の社長のご発言として本当に日本経済の活性化の観点からすばらしい内容と思います。

決して、経営者側から、役職定年制度や、早期退職制度を奨励や弁護するものではなく、社員に、そしてすべてのビジネスマンに、会社に頼らないのがご自分のためです、と、むしろ自戒を含めての発言のように思います。

会社に頼られる、社会に頼られる、世のためになる状態を維持して、人生100年時代を生きるビジネスマンなら、自分で人生設計をして、自分で、進路をきめなさい、ということでしょう。その分かれ目は、ビジネスマンとしての成長が一段落して、新しい技能の取得も難しくなる、45歳ごろであることは経験的にも明白です。

ビジネスマンは、どうしても、会社という制度を行動の基準にしますから、会社から、定年は45歳ですよ、ということにした方がわかりやすい、ということはあるかもしれません。ただ、その実行は法律的にもむずかしい。私は、それを阻止する、70歳定年法(改正高年齢者雇用安定法)は百害あって、一利なし、というテーマで、『定年格差』という本を書きました。

生涯、会社に頼られる、社会の役に立つ姿勢こそ、ビジネスマンが生涯幸せになるために、必要だと、実感しているからです」


(以下『定年格差 70歳でも自分を活かせる人は何をやっているか』から抜粋転載)

「経験」を活かせるのも45歳まで!?


年を積み重ねることで得てきたビジネスのスキル、ノゥハウ。それは代えがたい経験として、どんなビジネス環境にも活きる──。

シニア層を奮い立たせるうえで、よく見かける常套句だ。シニア層向けのキャリア、転職に関するメディアの記事や政府の提言などにも「経験を活かせ」といった文言がずらりと並ぶ。言いたいことはよくわかるし、経験が活きることは確かにある。

ただ、かつてよりうんと少なくなっているのは確かだ。


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デジタルテクノロジーの進化によってビジネスのスタイルは大きく変わった。例えば営業職といえば、少し前まではとにかく足繁くお客のもとに出向いて、接触機会を増やすことが是とされた。それが実際、成果にもつながったし、評価にもなった。

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