ブロックチェーン技術が実現するウェブ3.0
この延長線上には何があるのだろうか? 数年前からブロックチェーン界隈で頻繁にきかれるようになった言葉が「ウェブ3.0」だ。
「ウェブ1.0」は、第1世代のウェブ(1990年代〜)で、ユーザーの大部分が「READ(読み取り)」が目的でウェブを活用していた。メディアや企業などの一部の権威を持った組織が情報を「one to many(一方向)」型で発信していた。
それに続く「ウェブ2.0」は、第2世代のウェブ(2000年代〜)で、ユーザー個人が容易に発信できるようになり、ウェブの活用目的は「READ」だけでなく「WRITE(書き込み)」に拡張した。つまり、「many to many(双方向)」のコミュニケーションが可能になったのだ。この双方向のコミュニケーションを容易にするFacebookやTwitterなどのプラットフォームにユーザーが集まり、その背後にあるプラットフォーマー企業は巨大化し始めた。ユーザーは、そのプラットフォームを提供する企業を「信頼」する必要があったが、前述の通り、近年これらのプラットフォーマー企業の利益最大化のための暴走ぶりが露わになり始めた。
そして、今時代は「ウェブ3.0」の世代に突入しようとしている。ウェブ3.0では、ブロックチェーンを使うことによって、特定の第三者を「信頼」せずにも、個々が発信して取引実行ができるようになる世界となる。つまり、「READ」と「WRITE」に加えて、「EXECUTE(実行)」が可能となる。
ウェブ2.0とウェブ3.0を対比したアナロジーとして、シリコンバレー有数のベンチャー投資会社(VC)であるアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のクリス・ディクソンは、「ディズニーランド」と「公共の公園」という表現を使った。つまり、ウェブ2.0の世界は、ディズニーランドのように、個人が楽しめるよう、その背後にある企業が色々とお膳立てしてくれた世界。ウェブ3.0は、個人がコミュニティの公共インフラである公園を楽しめる世界、というわけだ。また、ウェブ3.0では個人が一方的に公共のインフラを使用するだけでなく、コミュニティの一員として開発や維持にも自発的に貢献して、正当な報酬を受け取ることができる。このようなコミュニティーベースの分散化された社会がブロックチェーンの基盤技術を通して、初めて可能となった。
「ウェブ3.0」が発展していく中で、シリコンバレーの先進的なVCは、ブロックチェーンのインフラ作りやツールを提供するようなスタートアップやプロジェクトの発掘、投資に力を入れている。例えば、前述のa16zはウェブ3.0をテーマとしたファンドを立ち上げており、直近(21年6月)に立ち上げたファンドはなんと220億ドル(約2兆5,000億円)にも及ぶ巨大ファンドだ。イーサリアムの共同創業者で、現在は「ポルカドット(Polkadot)」というブロックチェーンプロジェクトに取り組んでいるギャビン・ウッドも「Web3 Foundation(Web3財団)」を立ち上げ、基盤となるインフラ作りに取り組んでいる。ファット・プロトコルが示すように、ウェブ3.0ではプロトコルレイヤーが価値の源泉になるからこそ、インフラに投資しているのだ。
ウェブ2.0で繁栄したプラットフォーマー企業に対する批判が激化する中でのウェブ3.0の台頭は決して偶然ではない。極度にパワーが集中化したウェブ2.0の世界からの揺り戻しが起こっているのだ。
我々はウェブ3.0のまだほんの入り口にいる。しかし、まさに今シリコンバレーではその新たな世界に向けた「種まき」が行われているのだ。このウェブ3.0の種は我々が想像するよりも速く成長し、新たなビジネスモデルを世にもたらすだろう。日本はウェブ2.0に乗り遅れた。世界ではウェブ3.0の胎動がまさに起こっていることを認識して、今度こそ乗り遅れないように行動すべきだ。
連載:米国発、次世代金融動向を読み解く
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