ある時、日本の友人が、ド・モンティーユ氏に日本ワインを試飲する機会を設けてくれた。それは、日本固有のブドウ品種によるワインではなく、国際的なブドウ品種で日本の土地を表現したワインばかりだった。彼はこのときのことを「ワインの強い個性を感じ、発想がとても面白いと思いました」と回想する。
その後、日本のワイン産地を訪問。ワイン造りのインフラが整っていないなか、日本人らしい勤勉さと緻密さ、努力によって手探りでワイン造りに取り組んでいる人たちと出会い、尊敬の念を抱き、日本ワインの可能性を感じた。さらに、ブルゴーニュでは経験できない“パイオニアとして”ワイン造りをすることに惹かれたという。
「ブルゴーニュは伝統と歴史に根付いた素晴らしいワイン産地ですが、イノベーションの余地が少ない。逆に、日本には、伝統とインフラがないのが面白い。何もない中で創り上げていくことにも魅力を感じました」
筆者がド・モンティーユ氏と会って感じたのが、まさにその“開拓者”としての側面だ。
シリコンバレーにも通じる、好奇心旺盛で自由な発想をもとに新しいことに挑戦する姿勢、知恵や経験を共有する寛容さ、起業家精神、そしてチームワークで物事を成し遂げる力がモンティーユ氏にはある。
タイミングも合致した。ブルゴーニュでの自身のドメーヌの成長がひと段落し、次なる挑戦を探していたところだった。
ゼロからブドウ畑を造る
ド・モンティーユ氏は、数々の日本のワイン産地を訪問し、ブルゴーニュのブドウ品種との適合性を見極め、函館という地を選んだ。そのなかでも、土壌や気候を調査分析し、適地と思われる場所を探しだし、ブドウ栽培を始めた。
「de MONTILLE & HOKKAIDO」(ド・モンティーユ&北海道)の畑。標高200~280mの絶景の場所にある
何もない土地で、ゼロからのスタート。2016年にプロジェクトが始動し、2019年に最初のブドウが植樹された。2021年初夏に筆者が訪問した時には、栽培チームが約38ヘクタールもの敷地で、熱心に畑づくりとブドウ栽培に励む姿が見られた。現在は、約10ヘクタールにブドウが植えられているが、徐々に栽培面積を増やしていく予定だ。
ブランド名は、「de MONTILLE & HOKKAIDO(ド・モンティーユ&北海道)」。ワイン業界で長い経験を持つ矢野映氏がジェネラル・マネージャーとして就任し、フランスのドメーヌから栽培・醸造責任者のバティスト・パジェス氏が北海道に移転し、石黒かおり氏がエグゼクティブ・オフィサーとして日仏をつなぐ役割を担うなど、チームとしての体制も整った。
技術責任者のバティスト・パジェス氏