これには主に二つの理由があり、一つは自然環境、もう一つは醸造法にかかわるものだ。自然環境で言えば、気候変動、特に地球温暖化によりブドウ畑の気温が上昇し、ブドウに含まれる糖分が増加したことがある。この糖分は発酵過程でアルコールに変わる。
これはフランスのブルゴーニュやボルドーなど、涼しくて雨が多い地域ではうれしい変化だ。こうした地域では、アルコールと果実味、渋味、酸味のバランスを取るのが難しい。ブルゴーニュの生産者の中には、シロップなどを加え糖分を高めることでアルコール度数を上げるシャプタリザシオン(補糖)を行ったり、日照時間が長く温暖な南部のワインを混合したりするところもある。
一方、カリフォルニア州や南米、オーストラリアなどの温暖な産地では、糖分不足の心配はない。むしろ、一流の醸造業者はワインの度数を赤では14.5%よりかなり下に抑え、白では14%を超えないようにしている。
ただ、これは一般的なルールではなく、こうした生産者は例外的だ。大半の醸造業者は温暖な気候を利用し、ブドウの収穫時期を遅らせるなどして糖分含有量を高め、ワインの糖分水準を上げてきた。こうした生産者側の主張としては、温暖な気候で育ったブドウを早く収穫し過ぎると理想的なアルコール度は実現できる一方で、「フェノール成熟度」と呼ばれる味の成熟度が失われるというものがあり、理に適った考えではある。
カリフォルニアのナパヴァレー(Getty Images)
アルコール度が高いワインが支持される理由は、単にワイン消費者の好みにある。カリフォルニア州が1970年代、「ブロックバスター(重量級)」とも呼ばれる高アルコール度数のカベルネ・ソービニヨンやピノ・ノワールの生産を始めると、急成長中だったワインメディアから高い評価を集めるようになった。
メディアの評価では、特に一度に10〜20種類のワインをブラインドテイスティングするような場合、こうしたフルボディのフルーティーなワインがどうしても際立ってしまう。アルコール度数14%のボルドー産ブレンドワインは、15~16%のカリフォルニア産カベルネ・ソービニヨン100%のワインをなかなか越えられない。
ワイン生産者の多くは、ワインメディアから賞や高評価を得られるようなワインをつくってきた。特に影響力が大きいのがワイン評論家のロバート・M・パーカー・Jr.で、(本人は否定しているものの)彼のニュースレター「ワイン・アドボケート」ではずっしりとしたワインが好まれる傾向にある。そうしたワインは、自然とアルコール度数が高くなる。
多くのワイン醸造業者は、公には言わないものの、これがブロックバスターワイン生産の理由だということを認めている。反対派はこうしたワインについて、高い評価につられる人や、ずっしりとしたワインを好む人を引きつけるよう意図的に操作されたものだと指摘する。