AIを活用してDXを推進するためには、それを操る人材が必要不可欠だ。アンドリューはスタンフォード大学の教授をしていた2012年に、自らのコンピューターサイエンスのコースをオンライン上で公開して以来、共同でCoursera(コーセラ)を設立するなど、AI人材の育成に尽力してきた。
2017年にはDeepLearning.AIを設立し、エンジニア向けのオンライン講座に加え、2018年には非エンジニア向けのオンライン講座「AI For Everyone」をローンチ。アンドリューはこの10年間、アメリカをはじめさまざまな国のAI人材を育成し、イノベーションを促進してきた。
「あるデジタルメディア系の企業は、何千といる従業員たちにオンラインコースを受講させました。翌年度には多くのイノベーションやたくさんのアイデアがボトムアップで生まれ、機械学習プロジェクトへの応用も見られました。また、ある国では大統領と閣僚の全員がAI For Everyoneを受講したところ、その後数年にわたり、政府がより配慮のある法令を定めるようになりました。企業のマネージャーや経営陣、国のトップ、さらには企業の全従業員がAIについて学ぶことで、クリエイティブなアイデアが生まれるのです」
一方日本では、松尾が先駆者としてAI人材の教育を牽引してきた。ディープラーニングが世の中に大きな影響をもたらすと、松尾が予見していたからだ。
「アンドリュー先生ほど早くからではないですが、2012年にはディープラーニングが影響をもつようになると確信していました。2015年には東京大学でディープラーニングの講義を始めました。卒業生の多くがさまざまな分野で活躍し、一部の人はスタートアップ企業を立ち上げ、成功を収めています」
松尾の教育熱は、大学の枠にとどまらない。2017年にJDLAを創設したが、その理由について松尾はこう語る。
「産業の健全な発展のためには、何らかの資格をつくることが重要です。誰でも『私はAIをやっている』と口では言えますし、『悪貨が良貨を駆逐する』ということわざもあるので、資格制度が必要だと考えたのです。これがJDLAの設立に至った主な要因です」
G検定とE資格という2つのコースを設け、合格者4万人が参加する「CDLE(シードル)」というコミュニティも立ち上げた。しかし、この数は国全体で考えると多くはない。そこでさらに裾野を広げるべく、JDLAはDeepLearning.AIと共同でAI For Everyoneの日本語版を開発し、今年5月にリリースした。約1カ月で1万人以上が受講するほどの反響だ。
AI For Everyoneは世界中でこれまで約70万人が受講した実績がある。従来では、AIの教育対象者はエンジニアだったが、なぜ「みんな」を対象としているのだろうか。アンドリューはその問いにこう答える。
「AIがポテンシャルを最大限発揮するにはエンジニアも必要ですが、非技術者の方にも大きな役割を担ってもらう必要があります。AIがこれほど広まったことで、誰もがその影響を受けています。だからこそビジネスリーダーやさまざまな機能的役割を担う人々が技術についてできることとできないこと、そして有意義なプロジェクトについて、理解することが重要なのです。AIを理解しているビジネスリーダーほど、よりよい判断が下せると思います」