「消えた女」と「探す女」、操られていたのはどちらなのか

ステファニーを演じたアナ・ケンドリック(左)と、その親友エミリーを演じたブレイク・ライヴリー(右)(Steven Ferdman/Getty Images)

情報番組やバラエティなどで、YouTubeの動画が紹介されるようになって久しい。事件や災害のTVニュースに使われるなど、報道の中に占める比重も年々増えている。

進研ゼミ小学講座が行った調査では、2020年の小学生男子の将来なりたい職業ランキングは2位がYouTuber(女子では4位)。2017年頃からは、CGなどによるキャラクターがYouTuberとしてふるまうバーチャルYouTuber(VTuber)も出現、さまざまなキャラクターが人気を集めている。

YouTubeの中でも人気のカテゴリーに、ビデオブログ(Vlog)がある。今回紹介する『シンプル・フェイバー』(ポール・フェイグ監督、2018)は、ヒロインがVlogの画面で何度も登場する、YouTubeの普及を背景にした作品だ。

「あるある」を遊ばせた作品


シングルマザーのステファニー(アナ・ケンドリック)がリッチなエミリー(ブレイク・ライヴリー)とママ友になり、互いの秘密を打ち明けるほど親しくなったところで、仕事の都合でエミリーの子供を預かることになるのだが、その日からエミリーはふっつり姿を消す。

彼女の夫ショーン(ヘンリー・ゴールディング)にも勤務先のアパレル会社にも所在がわからない中、エミリーはある日なぜか離れた場所で水死体となって発見される。

打ちのめされたショーンを支えようとするステファニーだが、しばらくすると死んだはずのエミリーの影が周囲にちらつき始める。

ミステリードラマとしてもよくできている本作だが、謎解きのスリルに重点が置かれているのかと言えば、ちょっと違う。

注意深い観客なら、ステファニーがエミリーの仕事場で見つけた顔写真のコピーも水死体も、エミリー自身ではないことがすぐわかっただろう。

つまりステファニーがエミリーの死に疑問を抱き始める前に、観客は「エミリーは死んでおらず、死んだのはそっくりの人……例えば双子などだったのではないか」「その死にエミリーは関係しているのではないか」くらいのことは検討がつくのだ。

葬儀からかなり経った日の「今日、ママに会った」というエミリーの幼い息子の証言はもちろん、「子供は嘘を言わない」というお約束として機能する。

「実は双子だった」という種明かしは、ミステリーでは手垢のついたものである。後半で判明する偽装殺人も、ありふれたネタである。まったくの素人女性が、怖いもの知らずであちこちに鼻を突っ込んでいき、成り行きで謎を解くのも、おなじみの展開と言えよう。

何かと一言寸評を加えるママ友、アル中でパンキッシュな女性画家、古色蒼然とした住まいに物に埋もれて暮らす老女などの脇役も、一種のストックキャラクターだ。

つまりこのドラマは、「あるある」なモチーフで構成されており、それを十分わかって「あえてやってる」感がある。

そもそもタイトルバックからして、ジャズっぽいアレンジを施された軽快なフレンチポップスに乗せて、明らかに往年の007を連想させる作り。典型的なサスペンスもののムードを踏襲しながら「遊びますよ」と作り手がウィンクしているのだ。

ミステリードラマを遊びながら、この映画を通して鮮やかに浮かび上がってくるのは、対照的な2人の女のドラスティックな位相の大転換である。そこに絞って見ていこう。
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文=大野 左紀子

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