トップの座についた女性リーダーが、真の「多様性」に気づくまで

エマ・トンプソン(左)、ミンディ・カリング(右)(Matt Winkelmeyer/Getty Image)

エマ・トンプソン(左)、ミンディ・カリング(右)(Matt Winkelmeyer/Getty Image)

自民党総裁選のニュースが毎日のように流れている。なかでも注目されているのが、もし当選したら本邦初の女性総理となる高市早苗氏。女性が初めて国のトップになるのは好ましいのではないか、いや女性なら誰でもいいわけではない……など、SNSでの反応も賑やかだ。

世界に目を転じると、アイスランド、ニュージーランド、フィンランド、デンマークなど、女性の首相を擁するヨーロッパの国々は、日本に比べてはるかに国会議員における女性比率が高い。

そのなかで、保守的な男性議員の多いCDU(キリスト教民主同盟)の党首にして、16年間の任期を務めてきたドイツのアンゲラ・メルケル首相が、退任を前に「私はフェミニストだ」と初めて述べたと、9月14日付けのロイター通信が報じた。

彼女の言葉には、多くの男性を味方につけねば認められない男社会の中で、権力を誇示せず、慎重に振る舞ってきた女性リーダーの苦労が窺われる。

しかし、男性が多い中でトップを目指す女性が、男性以上に男性的であるケースは少なくない。今回は、そんな女性を描いた『レイトナイト 私の素敵なボス』(ニーシャ・ガナトラ監督、2019年)を紹介しよう。

非情な女ボス・キャサリン


多くの賞を獲得してきた著名な女性司会者キャサリン・ニューブリー(エマ・トンプソン)が、番組の脚本をつくるライターチームの中に、初めて女性のスタッフを入れようと決めるところから物語は始まる。

かつては時代の寵児だったがもはや「時代遅れ」と見做され始めたキャサリンが、彼女に憧れて入ってきた頑張り屋のモリー・パテル(ミンディ・カリング)をどう評価し、どのように自分の殻を打ち破っていくかが見所となっている。

だがそれ以上にこの映画が興味深いのは、近年の「多様性」重視の風潮を実にアイロニーを込めて描いている点である。

冒頭の3分でわかるのは、キャサリンが「イヤな女」だということだ。仕事では成功しているが、職場での人遣いは荒く、高圧的な独裁者、しかも部下には1人も女性を入れず、入れてもすぐクビにし、「フェミストぶってもミエミエだ」と陰口を叩かれている。

彼女は「男社会の中でトップに上り詰めた希少な女性」として自らの存在価値を守るために、周囲を男で固めるタイプなのだ。自分の輝きが薄れるので有能な同性を近くに置きたくないということもあろうが、そもそも同性に対して根本的に信頼を置いていないのではないかとも思われる。

そんなキャサリンが恐れるのは、視聴率低下を理由に降板をチラつかせる局長のキャロライン。あまり出番は多くない彼女だが、キャサリンと同年代で同じように苦労して出世した女性であろう、それだけに仕事面では1ミリも甘さを見せない。

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キャサリンを演じたエマ・トンプソン

何もかも理解して励ましてくれる唯一の味方、夫ウォルター(ジョン・リスゴー)は、NY大学の名誉教授だがパーキンソン病で自宅療養の身だ。

男性ばかりの職場で特に登場場面の多い3人を見ると、非情な女ボスとしてのキャサリンのさまざまな面が見えてくる。

まず彼女の秘書で、比較的年配のビリー。長年のつきあいの中である種の諦めも漂わせている、キャサリンのお守り役だ。彼女のわがままはしばしばビリーに対して発揮される。

次に、7名ほどいる男ばかりのライターチームのリーダー、トム。それなりに責任感の強い真面目な性格だが、いつまでたっても名前をちゃんと覚えてもらえない損な役回りだ。キャサリンの冷たさを身に染みて知っており、それに一番耐えているのは彼だろう。
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文=大野 左紀子

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