日本のスタートアップに向けて北欧で活躍する投資家からメッセージ
北欧は、市場や環境制約でボーン・グローバルを目指す必然性がありますが、日本は単一民族の国家で、マーケットもまだ大きいため単純に北欧のベストプラクティスを取り入れることは難しいと考えます。
ただし、人口減少が不可避で、スタートアップへの資金供給量も欧米に比べて低い状況を考えると、日本を主要市場にしつつ世界市場を対象にした事業、製品・サービス開発を目指し、海外からのお金を引っ張ってくる気概のある起業家が増えてもいいのではないでしょうか。そのために、早い段階からinternationalな企業文化、人材育成、チーム構成を考え実際に行動に移す必要があります。
一方、日本企業による投資や買収はここ数年増えてきています。直近の買収事例としては以下のとおりで、日本企業による北欧企業の注目度が上がっている現状を踏まえると、今後日本企業をExit先とする事例は増えていくものと予想されます。
●事例
────────────────横河電機によるデンマークGrazper Technologyの買収
SONYによるノルウェーNevionの買収
NECによるノルウェーOncoImmunityの買収
トプコンによるフィンランドKIDE Clinical Systemsの買収
モンスター・ラボによるデンマークNodesの買収
電通によるスウェーデンOutfox Intelligenceの買収
ナカニシによるスウェーデンIntegration Diagnosticsの買収
日本の大企業とのオープンイノベーション
2013年にソフトバンクがフィンランドの「スーパーセル」を買収したあたりから、43の日本企業が68の北欧企業に投資。例えば、フィンランドのナトリウムをベースとした次世代蓄電池開発の「BroadBit Batteries」への安川電機の出資、モバイル用ゲームストリーミングの「Hatch Entertainment」へのNTTドコモの出資などがあります。
また、交通のクラウド化という「MaaS Global」の成功例もあります。これは、相乗り、タクシー、レンタカー、自転車シェアなどを組み合わせて最適な移動手段を繋ぐことを指すものですが、問題意識はUberやLyft、Grabと同様、使われずただ置いてある車をどうすれば減らせるか、というものです。
「Whim」というアプリは、出発地から目的地への複数の交通手段を統合させたルート検索・運賃表示、予約・決済、チケット発行をワンストップショップで提供しています。交通手段には、鉄道やバスだけでなく、トラム(路面電車)、シェアサイクル、タクシー、レンタカーなどあらゆる交通手段が含まれており、Whimを通じて到着時間、徒歩距離や環境配慮などユーザーにとって最適な移動が可能となります。
また、Whimでは、Pay-as-you-goモデル(移動ごとの都度払い)だけでなく、世界初となるサブスクリプションモデル(定額乗り放題)を提供しており、例えば、ヘルシンキにおいては月額499ユーロで全ての移動手段が乗り放題(但し、タクシーは5km圏内のみ)、月額62ユーロでレンタカーを除く移動手段が乗り放題(但し、タクシーは5km圏内10ユーロのみという定額保証)となり、自動車の所有に代えてサブスクリプションを申し込むユーザーが増えています。
これはまさしく従来「モノ」として所有していた自動車を筆頭としたMobility(移動手段)が、好きな時に好きな場所で使えるServiceに代わっていく事象で、本来のMobility-as-a-Serviceが持つ定義に沿ったものとなっています。三井不動産がNordicNinja VCと共同投資をしており、日本国内で既に実証実験をしています。三井不動産が持っているマンションやショッピングモールとMaaSの相性は良く、日本で不動産MaaSの展開を視野に入れているようです。