これまでの記事では、家という日常の空間で、いつもとは違う非日常を体験する「コミュニケーションイベント」として、コロナ禍で一新されているホームパーティーについて取り上げてきた。
では「家」自体は、近年どのような変化を迎えているのだろうか。自宅の楽しみ方に広がりが見られるように、家そのものも、さらなるコミュニケーションを醸成し、人間関係においても心地良さを生む場となるはずだ。
コロナ禍で変わりつつある日本の「家」の在り方について、ミサワホームのチーフデザイナーで一級建築士の仁木政揮に話を聞いた。
マイホーム事情 コロナで変化は?
仁木によれば、近年のマイホーム需要の傾向は「より充実した自分の時間を叶えるために家をもつ」というものに変化してきているという。
「昔は建物自体の老朽化や家族の増加、子どもが成長したので一人部屋を用意したいなど、建物やライフステージの変化をきっかけにして、家族のために家を建てるケースが多かった。しかし最近では事情が変わってきていて、自分の暮らしや自由な時間を大切に、より良く過ごす目的で家を建てることを考える人が多いと感じています」
ミサワホーム チーフデザイナー・一級建築士 仁木政揮
総務省による「平成28年社会生活基本調査」によると、これからの人生100年時代において、65歳以上の高齢者生活時間のうち、いわゆる「余暇」と呼ばれる自由に使える時間は、100歳まで生きると仮定すると10万時間以上に達するという。
20歳から65歳まで45年間働いた場合の生涯労働時間は7.7万時間と試算されており、定年後に過ごす自分のための時間がいかに多いかがわかる。もはや老後は余生ではないのだ。豊かな第二の人生を送るための住まいにしたいと考えることは、自然なことなのかもしれない。
さらにコロナ禍を経て、人々の家に対する意識にも変化が見られるという。
「住宅展示場の来場者は、コロナ禍となった当初は減少しましたが、徐々に足を運ぶお客様も戻ってきており、ウェブからのお問い合わせ数も増加しています。ステイホーム期間が、自分の家について真剣に考える時間となり、今年から本格的に家を建てようと動き出している方がかなり多いのかなと感じます。
家を建てる際の内装や間取りの需要で言えば、コミュニケーションの創出や開放的で連続性のある空間を重視される方が、コロナ禍を機により顕著に増えた印象です。
テレワークコーナーのニーズも増えていますが、私たちも最近は、単に集中するために閉じこもる場から、家事や介護、子育てをしながらでも仕事ができる場所など、ライフステージに合わせたものとなるよう提案しています。家族みんなが身近で、同じ空間で互いの気配を感じ合い、同じ時間を共有できるような暮らし方がニーズとしてあるのではないかと思っています」