リスト上位の人々は、大きな成功に伴う責務を強く認識している。格差が広がり、反動や社会不安が強まれば、経済活動は停滞してしまう。「自己利益のための利他主義」は必要だと知られてきた。しかし2021年に番付入りした新人や若きビリオネアの話を聞くと、パンデミック後を見据えた明らかな姿勢の変化が見えてくる。
ジョン・アーノルド 年齢 47歳 総資産 33億ドル 順位 925位 Centaurus Advisors(ヘッジファンド)創業者
「Give While You Live」。彼はビリオネアたちに、毎年自己資産の最低5%を慈善活動へ提供するよう呼びかけている。「世界をより良くするためにお金を使うのが真の目的だ」。
ジョン・アーノルドは、不祥事で倒産したエンロンでエネルギー取引に携わり、推定33億ドル(約3600億円)を稼ぎ出した。彼のやり方が称賛されることはなかったが、彼とその妻はこの10年間、影響力を最大限に生かす計画を練っていた。「米国が100年にわたり蓄積してきた莫大な富から受けるべき恩恵がある」と彼は言う。
2020年1月、彼は全米中に呼びかけて慈善家や学者や財団のトップらをニューヨークへ招集し、慈善活動を活性化させるため、「Initiative to Accelerate Charitable Giving」を結成した。目標のひとつは1420億ドル(約15兆3500億ドル)規模のファンドの創設だ。寄付者は税額を前もって控除し、コミュニティ財団や金融サービス会社へ預託できる。いつどのように寄付が行われるかは自由で、匿名も可。申告時の経費をずらして年間寄付額の上限を回避できる仕組みも検討している。
アーノルドは新たに「Give While You Live(生あるかぎり社会貢献せよ、の意)」活動を設立。自らが最初の寄付者となった。毎年自己資産の最低5%を慈善活動に提供するもので、慈善団体グローバル・シチズンによって運営される。アーノルドは「自分の世代で起きた問題は自分の世代で片付けたい」と話す。
ジャレッド・アイザックマン 年齢 38歳 総資産 23億ドル 順位 1362位 Shift4 Payments(決済処理システム)CEO
同社は、米国内の飲食店やホテルの決済の1/3を担う。20年にニューヨーク証券取引所に上場して14億ドルの純資産を手にした。うち1億ドル(約110億円)を小児病院に寄進。
ジャレッド・アイザックマンは、スクエアの競合企業となるShi ft4 PaymentsのCEOだ。株式公開の準備中に怒涛の1年を過ごしたが、ニューヨーク証券取引所への上場を成功させて14億ドル(約1400億円)の純資産を手にした。38歳の彼は、1億ドル(約110億円)の小切手を聖ジュード小児研究病院に送付した。財団などは通さずに寄付先を明確にしながら、良い活動をしている人々へ直接届けることを重視し、寄付の規模も大きかった。
この1年で突出した慈善活動をしているのは、女性の中で世界第3位のビリオネアとなったマッケンジー・スコットだ。ジェフ・ベゾスと離婚後の2020年に初めて、ランクインし、同年に、総額58億ドル(約6300億円)を補助金受給者に支援した。