「スポーツビジネスという概念はもっと拡大できる」DeNAが描く再構築への道筋

写真提供=横浜DeNAベイスターズ

10年前、球界に参入した新興のIT企業は、ガラガラだったスタジアムを満員にし、年間数十億円の赤字経営を黒字に転換。DeNAの岡村信悟社長は、再び陥ったどん底からも「必ず復活する」と断言する。プロ野球を起点とするビジネスに、大いなる可能性を見いだしているからだ。


「我々は絶頂にいて、さらにこれからというときにバーンとへし折られた。普通なら絶望です」

この春からDeNA代表取締役社長兼CEOに就任した岡村信悟は、新型コロナウイルスがもたらした影響を“絶望”という表現で振り返った。


横浜スタジアム社長、横浜DeNAベイスターズ社長を経て、2021年4月よりDeNA社長兼CEOを務める岡村信悟。

2019年シーズン、横浜DeNAベイスターズは絶頂を迎えていた。球団を経営して8年目。観客動員数は228万人を記録して、スポーツ事業売り上げは202億円(20年3月期)と初の200億円超えとなった。20年シーズンに向けて、2月には横浜スタジアムの増・改築が完了した。最大収容人数が5000人増えることで、観客動員数がさらに伸びることは確実だった。

しかしすでにそのころ、目と鼻の先の横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセス号では集団感染が発生していた。3月に入ってプロ野球開幕の延期が決定。3カ月遅れで開幕して、7月から有観客になったが、観客動員数は年間46万人にとどまった。前年の約5分の1。球団社長を兼務していた岡村がこの事態を絶望と表現したのも大げさではない。
 
ただ、スポーツ事業の売り上げは128億円(21年3月期)で、前期比36%減と踏ん張った。なぜ売り上げは観客動員数の落ち込みほどに減らなかったのか。苦境を支えたのは、企業からのスポンサー収入だ。

「ベイスターズと横浜スタジアムは地域の公共財であり、家族が家族史を刻む空間として親しまれてきました。そのことを誇りに思ってくれる地域の企業が、横浜を共に盛り上げていこうと応援してくれた」

球場の一体運営で、地域に愛される球団に


ベイスターズは、いかにして地域に愛される球団になったのか。歴史をさかのぼってみよう。

かつてプロ野球球団の多くは親会社の広告宣伝のために保有され、その効果を最大化するために全国区を目指した。潮流が変わったのは、1990年代にJリーグが発足してから。プロ野球でもローカル重視へのシフトが起き、首都圏や関西圏にほぼ集中していた球団が地方に移転し始めた。ちなみにベイスターズは78年から横浜を本拠地にしている。

DeNAが経営権を取得したのは、11年のシーズン終了後。球団経営は毎年25億円の赤字という状況下での参入だったが、そこから観客動員数を伸ばして5年で黒字化を達成する。19年の稼働率は98.9%で、いまやリーグ屈指の人気球団となった。
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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=内藤 歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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