アカデミー脚本賞の話題作、精緻な復讐劇が光る「プロミシング・ヤング・ウーマン」

「前途有望な若い女性」だったキャシーの描く復讐劇の行方は(c)2020 Focus Features

アカデミー賞には脚色賞と脚本賞がある。脚色賞はアカデミー賞が始まった1929年の第1回から設けられていたが、脚本賞という新たな部門が設置されたのはそれより後、1940年の第13回からだ。

脚色賞は、小説や舞台劇などから起こされた「原作あり」の脚本に与えられるもので、初期の映画の脚本が舞台劇をもとにしたものが多かったことから「脚色賞」として設けられたものではないかと思われる。

一方、脚本賞は、第1回から存在していた原案賞(1957年の第29回で廃止)から派生したもので、原作を持たないオリジナルの脚本に与えられる。これまで脚本賞を最も多く受賞したのはウディ・アレンで、「アニー・ホール」(1977年)、「ハンナとその姉妹」(1986年)、「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)と都合3度この賞に輝いている。

前回は「パラサイト 半地下の家族」で、アジア人として初めてポン・ジュノと共同脚本のハン・チンウォンが脚本賞を受賞して話題を集めたが、今年この栄誉に浴したのが、「プロミシング・ヤング・ウーマン」のエメラルド・フェネルだ。

監督は女優で小説家で脚本家の才人


「プロミシング・ヤング・ウーマン」は、「ミナリ」(リー・アイザック・チョン脚本)や「シカゴ7裁判」(アーロン・ソーキン脚本)などの有力なライバルを抑えて受賞を果たしたが、それだけにとてもよく練られた脚本だ。

ホラー、ラブコメディ、サスペンス、ミステリーなどさまざまな要素をバランスよく詰め込み、あまつさえラストには驚くべき仕掛けも用意されている(筆者もこの結末は想像できなかった)。

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(c)Focus Features

脚本を執筆したエメラルド・フェネルは、監督も務めている。彼女にとっては初めての長編映画だが、今回のアカデミー賞では脚本賞とともに、惜しくも受賞は逃したものの監督賞にもノミネートされていた。

エメラルド・フェネルは、1985年、イギリスのロンドン生まれ。今年まだ35歳だが、これまで女優、小説家、テレビ番組の脚本家など、クリエイターとしてのさまざまなキャリアを積み重ねてきた。

女優としては、映画「アンナ・カレーニナ」(2012年)、「リリーのすべて」(2015年)などに出演。日本でも人気となったテレビドラマ「ザ・クラウン」ではカミラ妃も演じている。小説家としては、児童向けファンタジーや大人向けのホラーを上梓している。

これまで映画は、短編「Careful How You Go」(2018年)を発表している(脚本も執筆)が、長編デビュー作として満を持して臨んだのが、この「プロミシング・ヤング・ウーマン」だ。フェネルは、脚本執筆の動機について次のように語っている。
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文=稲垣伸寿

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