台湾映画の異端児が放つ傑作 「消えた1日」をめぐる恋と謎解き |1秒先の彼女

貴重な1日が突然「消えて」しまった女性を巡るストーリー(c)MandarinVision Co, Ltd

台湾にはバレンタインデー(情人節)が年2回ある。1つは日本と同じ2月14日の「西洋情人節」、もう1つは旧暦7月7日の「七夕情人節」だ。

七夕情人節は「チャイニーズ・バレンタインデー」とも呼ばれ、今年で言えば8月14日。2月の西洋情人節が、台湾では旧正月(今年は2月12日)の時期と被るため、恋人たちが盛り上がるのは真夏のバレンタインデーのほうだという。

日本とは異なり、台湾のバレンタインデーは男性から女性へプレゼントを贈るのが一般的だが、この貴重な1日が、突然「消えて」しまったアラサーの独身女性が、映画「1秒先の彼女」の主人公だ。

「消えたバレンタインデー」の謎を解く


「1秒先の彼女」は、主人公のヤン・シャオチー(リー・ペイユー)が交番に駆け込む場面から始まる。

「どうしました」という警官の言葉に、真っ赤に日焼けした彼女は「無くし物をした」と訴える。「どんな?」と尋ねられると「1日です」。「どの日を無くした?」とさらに警官が聞くと、シャオチーは「昨日です。バレンタインよ」と真顔で答えるのだった。

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(c)MandarinVision Co, Ltd

時は遡り、シャオチーは郵便局の窓口業務に忙しい。彼女は小さい頃から何をするにも人よりワンテンポ早かった。競走ではフライング、映画館でも笑うタイミングが早く、写真ではいつも撮影の瞬間には目を瞑ってしまっていた。そのため、これまですんなり周囲に溶け込むことができない人生を送っていた。

バレンタインデーを間近に控えたある日、シャオチーは公園でダンスレッスンをするリウ・ウェンセン(ダンカン・チョウ)から声をかけられる。その場でレッスンに参加したシャオチーは、ここでもリズムが合わなかったが、イケメンでユーモアもあるウェンセンに心が惹かれる。

翌日、シャオチーが働く郵便局に現れたウェンセンから、いきなり映画に誘われる。「早過ぎない?」と答えるシャオチーに、「君のテンポも」とウェンセンに返されるが、デートの誘いに喜びを隠しきれないシャオチーだった。

デートの日、映画館でもシャオチーは笑うのが1人だけ早く、ウェンセンも苦笑い。映画を観た後、彼から「バレンタインの予定は?」と聞かれると、「ないわ。ずっとそうだった」と答えるシャオチー。ウェンセンも「ないよ」と応じ、2人はめでたくバレンタインデーに会う約束を交わす。

当日の8時、シャオチーは目覚まし時計よりワンテンポ早く起き、待ち合わせ場所に向かうため、デート用の服を着てバスに乗り込む。隣の席の仲睦まじいカップルを余裕で眺めていたシャオチーだったが、記憶はそこで途切れる。

次の場面、シャオチーが目覚める朝が繰り返される。今度は8時35分。シャオチーの意識では、まだデートの当日だ。慌てて鏡を見ると、デート用の服を着たまま、顔は真っ赤に日焼けしていた。街に出て人に尋ねると、バレンタインデーは昨日だったという答え。慌ててウェンセンに連絡を取るが、電話は繋がらない。そこで、シャオチーは交番に駆け込んだのだった。
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文=稲垣伸寿

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