アカデミー脚本賞の話題作、精緻な復讐劇が光る「プロミシング・ヤング・ウーマン」

「前途有望な若い女性」だったキャシーの描く復讐劇の行方は(c)2020 Focus Features


ここから展開がチェンジし、キャシーの精緻な頭脳で計画された復讐劇が始まるのだが、4つ(見方によっては5つ)に分けられたエピソードは、先へ先へと興味を繋ぐ見事なサスペンスに満ちており、加えて予想外の謎解き的要素も散りばめられたミステリーにもなっている。

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(c)Focus Features

主演女優の「七変化」にも注目


アカデミー賞の監督賞にもノミネートされたフェネルの演出も冴えている。初の長編とは思えないほど、綿密にそれぞれのシーンが計算されており、身に纏うファッションや手にする小道具にも主人公の内面が色濃く反映されている。繊細で洗練されたセンスも光っている。

ともすれば辛気臭い復讐劇になってしまいそうな作品だが、エンターテインメントとしても機能するように設計されており、全編に配されたポップな感覚が観る者を楽しませてくれる。プロモーションのメインビジュアルとしても使用されているキャシーの看護師姿は、劇中でも特に印象深い。

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(c)Universal Pictures

「プロミシング・ヤング・ウーマン」は、アカデミー賞では5部門でノミネートされており、うち主演女優賞の候補に挙げられたキャリー・マリガンの存在は、作品に欠かせないものとなっている。監督のフェネルも、当初から主人公のキャシーの役はキャリー・マリガンをイメージしていたという。

「キャシーの性格は、とても冷たくて、ガードが固くて、皮肉屋で、自己中心的です。おまけに多くの女性がそうであるように、必要なときに自分の魅力を演出できるのです」

キャシーを演じたマリガンも、監督の期待に応え、劇中では華麗な「七変化」を演じている。あるときは力強い意志力をみなぎらせる女性、あるときは可愛らしいまるでティーンエイジャーのような女性、そしてあるときは男性の視線を釘付けにする蠱惑的な女性。マリガン自身も「この主人公を他の人が演じるかと思うと不安と怒りが込み上げてきた」と語るように、出演を快諾したという。

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映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』7/16(金)TOHOシネマズ日比谷&シネクイントほか全国公開(c)2020 Focus Features, LLC.

エンターテインメントとしても優れているだけでなく、「プロミシング・ヤング・ウーマン」には、女性から男性への個人的復讐劇を超え、閉塞された社会に対する辛辣なメッセージも含まれている。

キャシーが、前述の4つに分けられたエピソードを通して復讐劇を完遂させていくなかで、明らかとなっていく「真実」は、「前途有望な若い女性」の未来を阻んだ原因が、事件そのものだけではなかったことも描いている。そのあたりもこの作品の脚本が優れている理由かもしれない。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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